相続 × 不動産の共有リスク
相続不動産の共有は
「負の遺産」になりやすい
売れない・貸せない・管理費がかかる——
共有のリスクと早期解消の方法を徹底解説します。
「とりあえず兄弟みんなで共有にしよう」——相続時についやってしまいがちなこの判断が、後々大きなトラブルの種になることがあります。不動産を複数の相続人で共有すると、売却・リフォーム・賃貸に出す際には全員の同意が必要になります。1人でも反対すれば身動きが取れなくなり、管理コストだけかかり続ける「負の遺産」になりかねません。この記事では、相続した不動産を兄弟で共有することのリスク・よくあるトラブル・解消方法を元銀行員AFPの視点から詳しく解説します。
著者より
銀行員時代に「共有のままにしていた実家のことで兄弟と揉めた」という相談を何度も受けました。特に多かったのが「売りたいと思っているが、兄が反対して売れない」というケースです。兄弟の仲が良い時は問題なくても、どちらかが亡くなって配偶者や子どもが持分を相続した途端に関係がこじれることも。「困ってから解消しようとすると費用も時間も大幅にかかる」というのが私の実感です。
今回の記事では、共有の実態をできるだけ具体的にお伝えします。相続が決まったタイミングで解消することが最も簡単で費用のかからない方法です。ぜひ参考にしてください。
— 田中由美(AFP・相続診断士・元銀行員)
不動産の共有持分とは?仕組みを理解する
不動産を複数人で共有すると、各自の権利は「持分」として登記されます。例えば兄弟2人で等分に相続すると、各自が1/2の持分を持ちます。持分は各人の権利ですが、不動産全体については下表のような制限があります。
| 行為の種類 | 必要な同意 | 具体例 |
|---|---|---|
| 保存行為 | 各自が単独でできる | 建物の修繕・不法占拠者への明渡請求など |
| 管理行為 | 持分の過半数の同意 | 短期賃貸借(3年以内)・管理会社との契約・用途変更など |
| 変更・処分行為 | 全員の同意が必要 | 売却・建物の取り壊し・大規模リフォーム・長期賃貸借(3年超)など |
| 自分の持分だけ処分 | 自分だけの判断でできる | 自分の持分だけを売却・贈与する(ただし他の共有者が優先的に買い取れる) |
⚠ 重要:持分だけの売却は「第三者」が買うリスクがある
自分の持分だけを売却することは法律上可能です。しかし、見知らぬ第三者(不動産業者・投資家など)が持分を買い取ることがあります。そうなると、残った兄弟と見知らぬ第三者が共有者となり、その第三者から「共有物分割請求」(競売を求める訴訟)が起こされるリスクがあります。共有の解消は兄弟間で合意して進めることが最善です。
共有不動産でよくあるトラブル8パターン
| # | トラブルの内容 | なぜ起こるか | 対処法 |
|---|---|---|---|
| ① | 売却したいが反対される | 売却には全員の同意が必要。1人でも反対すれば売れない | 交渉・調停・共有物分割請求訴訟で解決を図る |
| ② | 一人が住み続けて家賃を払わない | 共有者の一人が無償で居住。他の共有者は家賃を請求できる立場だが実際には難しい | 持分に応じた使用料(地代相当)を請求する。合意できなければ訴訟も選択肢 |
| ③ | 固定資産税の支払いで揉める | 固定資産税の納税通知は代表者に届くが、各自の負担割合で支払うのが原則 | 持分割合で按分した金額を明確にして、書面で合意しておく |
| ④ | 共有者が亡くなって持分が分散する | 兄弟の一人が亡くなると、その持分が配偶者・子どもへ相続され共有者がさらに増加 | 早期に共有を解消する。または遺言書で持分の行方を指定しておく |
| ⑤ | リフォームの合意が得られない | 大規模修繕(変更行為)には全員の同意が必要。費用負担の合意も必要 | 修繕の緊急性・費用効果を説明して合意形成。軽微な修繕は保存行為として単独で実施可能 |
| ⑥ | 賃貸に出したい/出したくない | 3年を超える賃貸借は全員の同意が必要。空き家のまま放置するか活用するかで意見が割れる | 3年以内の短期賃貸借であれば持分過半数で決定できる。長期賃貸は全員合意が前提 |
| ⑦ | 連絡が取れない共有者がいる | 共有者の一人が行方不明・音信不通になると全員合意が不可能になる | 不在者財産管理人の選任(家庭裁判所)または所在等不明共有者への裁判所への申立てで対処 |
| ⑧ | 見知らぬ第三者が共有者になる | 兄弟の一人が自分の持分を不動産業者・投資家に売却してしまった場合 | 持分買取交渉・共有物分割請求で対処。第三者が競売を申立てることもある |
共有を解消する4つの方法
共有不動産のトラブルを根本的に解決するには、共有を解消することが最善です。主な方法は以下の4つです。
| 方法 | 内容 | メリット | デメリット・注意点 | 全員合意 |
|---|---|---|---|---|
| ① 持分を他の共有者に買い取ってもらう | 共有者の誰かが他の人の持分を買い取り、単独所有にする(代償分割) | 不動産をそのまま残せる。兄弟間で穏便に解決できる | 買い取る側に十分な現金が必要。価格の折り合いがつかない場合がある | 不要(2者間の取引) |
| ② 全員で売却して代金を分ける(換価分割) | 不動産を売却して、得た代金を持分割合で分配する | 公平に分配できる。現金化して各自が自由に使える | 全員の合意が必要。一人でも反対すれば売れない。譲渡所得税が発生する場合がある | 全員必要 |
| ③ 土地を分筆(現物分割)して各自が独立所有 | 土地を分割して(分筆登記)各自が独立した土地を所有する | 各自が独立して売却・活用できる。現金が不要 | 広い土地でないと難しい。分筆費用(測量・登記:30〜60万円)がかかる。建物がある場合は基本的に不可 | 全員必要 |
| ④ 共有物分割請求訴訟(裁判) | 共有者の一人が裁判所に申立て、裁判所が強制的に共有を解消する(競売・現物分割・代金分割) | 全員の合意がなくても共有を解消できる。最終的な手段として有効 | 弁護士費用・時間(1年以上かかることも)。競売になると市場価格より安くなる場合がある | 不要(裁判) |
共有解消の方法を選ぶ際のポイント
兄弟関係が良好な場合
まずは話し合いで解決を目指しましょう。「誰かが買い取る(代償分割)」か「全員で売却して代金分配(換価分割)」が最もスムーズです。遺産分割協議の段階で決めておくのが理想です。
買い取る側の資金が不足している場合
共有持分を担保に銀行からローンを組む「共有持分買取ローン」を利用できる場合があります。または、不動産を賃貸に出して賃料収入で少しずつ買い取ることも交渉可能です。
一人だけ売りたくない(または住み続けたい)場合
住み続けたい共有者が他の持分を買い取る「代償分割」が最適解です。買い取る現金がない場合は、住み続ける代わりに毎月「使用料(家賃相当)」を他の共有者に支払う形での合意も可能です。
共有者の一人が音信不通の場合
2021年改正民法(2023年施行)により、所在不明の共有者がいる場合に裁判所に申立てて持分を取得または売却できる制度が整備されました。弁護士・司法書士に相談して活用しましょう。
どうしても合意できない場合
「共有物分割請求訴訟」は共有者の一人が単独で申立てできます。ただし裁判では競売になることが多く、売却額が市場価格より2〜3割低くなる場合もあります。訴訟前に弁護士による調停での解決も検討してください。
相続発生直後(遺産分割協議の段階)の場合
今まさに相続の手続き中であれば、共有にしない選択をすることが最も簡単です。換価分割(売却して代金分配)か代償分割(一人が取得して現金補償)を遺産分割協議書に明記してください。
共有持分を第三者(不動産業者)が買い取るリスク
「持分買取業者」と呼ばれる不動産業者が、共有者の一人から持分を買い取るケースが近年増えています。このような業者は共有物分割請求訴訟を起こして競売を要求する場合があり、残った共有者にとって大きなリスクになります。
| 局面 | 起こること | 共有者への影響 |
|---|---|---|
| 持分売却後 | 見知らぬ業者が共有者として登場する | 業者から共有物の管理・売却に関する要求が届くようになる |
| 交渉段階 | 業者が割安で持分を購入し、高額での買い取りを要求してくる | 応じなければ訴訟をちらつかせてプレッシャーをかけてくる |
| 訴訟段階 | 共有物分割請求訴訟を提起される | 裁判所が競売を命じると、市場価格より安い価格でしか売れなくなる |
| 競売段階 | 裁判所の競売(強制競売)が実施される | 市場価格の60〜70%程度の価格でしか売れない場合もある。住み続けている人は退去が必要になる |
⚠ 持分買取業者からのアプローチに注意
最近は「あなたの持分を高額で買い取ります」という業者からのDMやチラシが増えています。持分を業者に売却することは権利上問題ありませんが、残った共有者にとっては上記のようなリスクがあります。共有者全員で話し合いを進め、まずは身内間での解決を目指してください。業者へ売却を検討する際は必ず弁護士に相談してください。
ケーススタディ|共有トラブルの実例と解決の流れ
| ケース | 状況 | 問題 | 解決策・結果 |
|---|---|---|---|
| ケース1 | 兄(持分1/2)が実家に住み続け、弟(持分1/2)が売却を希望 | 兄が売却を拒否。弟は固定資産税(年12万円)の半額を負担しているが利益がない状態が5年続く | 弁護士を交え調停。兄が銀行ローンで弟の持分を買い取ることで合意。弟は持分売却代金を受け取り解決 |
| ケース2 | 兄弟3人で実家を共有(各1/3)。長男がリフォームしたいが次男・三男が費用負担を拒否 | 大規模リフォームには全員合意が必要。次男・三男は「売却すればいい」と主張し対立 | 長男が次男・三男の持分を相場より少し高めの価格で買い取ることを提案。次男・三男が合意し、長男が単独所有に。長男は自分の判断でリフォームを実施 |
| ケース3 | 父が亡くなり、兄弟2人で実家を共有。数年後に兄が急死し、兄の持分が兄の配偶者と子2人に相続 | 共有者が一気に4人になり(弟・兄の配偶者・兄の子2人)、意思決定が困難に | 弟が兄の相続人3人の持分すべてを買い取ることで交渉。不動産業者に査定を依頼して適正価格を算出し、全員合意で解決 |
| ケース4 | 兄弟の一人(次男)が自分の持分を持分買取業者に売却してしまった | 業者から共有物分割請求訴訟を起こされ、競売を迫られた | 弁護士を依頼して業者と交渉。業者の持分を市場価格で買い戻すことで示談解決。余計な費用(弁護士費用・業者への割増分)が発生し、早めに兄弟間で解決すべきだったと後悔 |
共有を防ぐための遺産分割の方法
最善の対策は「共有にしないこと」です。遺産分割協議の段階で、不動産の取り扱いを明確に決めましょう。
| 方法 | 内容 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 換価分割 | 不動産を売却して代金を相続人で分ける | 誰も住む予定がない・公平に分けたい・まとまった現金が必要 |
| 代償分割 | 一人が不動産を取得し、他の相続人に現金で補償する | 特定の一人が住み続けたい・不動産を手放したくない |
| 現物分割(分筆) | 土地を分筆して各自が独立した土地を取得する | 広い土地・建物がない土地・各自が別用途で活用したい |
| 一人が単独で相続 | 不動産は長男が相続する代わりに、他の相続人には預金等を多く配分する | 不動産以外の財産が十分にある・長男が住み続ける |
2021年改正民法で変わった共有不動産のルール(2023年施行)
2021年の民法改正(不動産関連)で、共有不動産の取り扱いに関するルールが大きく変わりました。2023年4月から施行されており、共有者が多い・所在不明などのケースでも解決しやすくなっています。
| 改正のポイント | 改正前 | 改正後(2023年4月〜) |
|---|---|---|
| 所在不明の共有者への対応 | 所在不明の共有者がいると売却等が困難。不在者財産管理人が必要だった | 裁判所に申立てて、所在不明の共有者の「持分取得」または「持分なし売却」が可能になった(所在等不明共有者の持分取得・譲渡制度) |
| 共有物の管理ルール明確化 | 「管理」の範囲が不明確で、何が過半数決定でできるか判断が難しかった | 3年以内の短期賃貸借・管理行為は持分価格の過半数で決定できることが明確化された |
| 共有物分割の方法 | 現物分割・換価分割・代金分割の区別が不明確 | 「一部の共有者が他の持分を買い取る(部分的代償分割)」も裁判所が命じられるように |
| 相続土地国庫帰属制度(2023年4月〜) | 相続した不要な土地を手放す方法がなかった | 一定の要件を満たす土地を法務大臣(法務局)に申請して国庫に帰属させることができるようになった(負担金あり) |
相続土地国庫帰属制度の注意点
相続土地国庫帰属制度は、要件が厳しく(建物がない・土地が汚染されていない・境界が明確など)、申請しても却下されることがあります。また、申請手数料(14,000円〜)と負担金(原則:10年分の固定資産税相当額)が必要です。「土地を国に返す最終手段」として認識しておきましょう。共有の場合は全員の合意と連署が必要です。
共有不動産の維持・管理コストのシミュレーション
共有のまま放置した場合、どのくらいのコストがかかるのかを把握しておきましょう。誰も住んでいない空き家の場合、特にコスト負担が大きくなります。
| コスト項目 | 年間費用(概算) | 備考 |
|---|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 6〜20万円 | 土地・建物の評価額により変動。空き家の場合、住宅用地特例(1/6)が適用されなくなると税額が大幅増加 |
| 建物の維持管理費(最低限) | 2〜5万円 | 最低限の換気・点検・草刈り等。放置すると建物の劣化が急速に進む |
| 火災保険料 | 1〜3万円 | 空き家の場合、保険料が割高になるか加入を断られる場合がある |
| 修繕費(経年劣化・雨漏り等) | 5〜30万円 | 放置した年数が長いほど劣化が進み、修繕費が高額になる。10年で100〜200万円かかることも |
| 合計(年間) | 14〜58万円 | 兄弟2人で共有の場合、各自7〜29万円の負担(修繕費は別) |
| 10年間の合計負担額(修繕含む) | 200〜700万円 | このコストを払い続けながら売れない・使えない状態が続くことになる |
特定空き家に指定されると固定資産税が大幅増加
市区町村が「特定空き家」に指定すると、住宅用地特例(固定資産税が1/6)が適用されなくなります。例えば固定資産税評価額1,000万円の土地の場合、年間の固定資産税が約3万円から約17万円に増加(約5.7倍)します。さらに改善命令・代執行(行政が除却して費用請求)のリスクもあります。空き家の共有不動産は特に早期解決が重要です。
相談すべき専門家と費用の目安
弁護士
相談:1万円〜 / 事件:30〜100万円
共有物分割請求訴訟・調停への対応・共有者との交渉代理。共有トラブルが深刻な場合は弁護士なしでの解決は困難。費用は案件の複雑さによる。
司法書士
5〜20万円
相続登記・持分移転登記・遺産分割協議書の作成。共有の登記変更(持分買取後の移転登記)に必要。法務局への申請はすべて代理可能。
不動産業者
査定:無料
共有不動産の時価査定・売却活動の代行。持分の買い取り価格交渉の参考価格算出にも活用できる。共有物件の取り扱い経験がある業者を選ぶ。
税理士
相談:1〜3万円 / 申告:5〜20万円
共有不動産を売却した場合の譲渡所得税の計算・確定申告。空き家特例・取得費加算の適用可否の確認。節税には売却前の相談が重要。
土地家屋調査士
30〜60万円
土地の分筆(現物分割)が必要な場合に境界測量・分筆登記申請。境界が不明確な物件の場合、隣地との境界確定から始まる。
家庭裁判所(調停)
申立費用:1,200円〜
共有物分割調停の申立先。弁護士なしでも申立て可能だが、複雑な案件は弁護士に代理を依頼したほうが有利。調停委員が間に入って話し合いを進める。
よくある質問
共有不動産トラブル防止チェックリスト
| ✓ | 確認事項 | タイミング |
|---|---|---|
| □ | 遺産分割協議で「共有」以外の選択肢(換価・代償・現物分割)を検討したか | 相続時 |
| □ | どうしても共有にする場合、管理・費用・売却時のルールを書面で合意したか | 相続時 |
| □ | 固定資産税の負担割合を共有者間で明確に合意しているか | 相続後 |
| □ | 空き家になっている場合、「特定空き家」指定のリスクを把握しているか | 相続後 |
| □ | 自分の持分を第三者に売却する場合、他の共有者に事前に相談したか | 売却時 |
| □ | 共有者が亡くなった場合の持分の行方を遺言書で指定しているか(共有の場合) | 生前対策 |
| □ | 共有者間で意見の相違が生じた場合、弁護士への相談を検討したか | トラブル時 |
まとめ
相続した不動産の共有は、将来の大きなトラブルの原因になります。「とりあえず共有」は避け、遺産分割協議の段階で不動産の取り扱いを明確に決めることが最善策です。
- 変更・処分(売却・リフォーム等)には共有者全員の同意が必要
- 共有者が亡くなると持分が分散し、さらに複雑になる
- 共有解消の方法:持分買取・全員売却・分筆・共有物分割請求訴訟
- 持分買取業者への売却は残った共有者に大きなリスクを与える
- 最善は遺産分割協議で「換価分割」か「代償分割」を選ぶこと
- すでに共有になっている場合は早めに弁護士・司法書士に相談する
不動産を複数の相続人で分ける4つの方法や相続した実家の売却手順もあわせてご確認ください。相続手続きの全体像を把握することで、スムーズな共有解消の判断ができます。

