相続 × 養子縁組
養子は相続人になれる?
普通養子と特別養子の違い
相続権・実親への相続・相続税の制限・養子縁組の相続対策活用——
養子の相続に関するすべてをわかりやすく解説します。
「養子に相続権はあるの?」「実子と差はある?」「普通養子と特別養子で扱いが違う?」——養子縁組と相続の関係は複雑に見えますが、基本的なルールを理解すれば整理できます。養子は法律上の子として実子と同じ法定相続分を持ちますが、相続税の計算では「法定相続人に含められる養子の数」に制限があるため注意が必要です。この記事では、普通養子と特別養子の違い・実親への相続権・相続税への影響・養子縁組を相続対策に活用する方法まで、詳しく解説します。
著者より
銀行で相続業務をしていた頃、「孫を養子にしたら相続税が減るって聞いたんですが」とご相談に来られるお客様がいらっしゃいました。確かに養子縁組には相続税の節税効果がありますが、乱用を防ぐために法律で制限があります。目的が「節税だけ」の場合は税務署に否認されるリスクもあります。
一方で、再婚後に連れ子を養子にする・子のいない夫婦が養子を迎える・おひとり様が信頼できる人を養子にして財産を確実に残す——こうした正当な目的での養子縁組は相続においても大切な意味を持ちます。この記事でしっかりと理解してから活用してください。
— 田中由美(AFP・相続診断士・元銀行員)
養子は相続人になれるか
答えは「はい、なれます」。養子縁組が成立すると、養子は法律上の子(実子と同じ地位)として養親の法定相続人になります(民法809条・887条)。相続分も実子と同じく均等です。
養子の相続権(基本)
- 養親の法定相続人として実子と同じ相続分を持つ
- 養親の遺産を相続できる
- 養親の配偶者(義親)の遺産も相続できる
- 養親が先に死亡した場合は代襲相続人(養子の子)が相続
- 養子自身が先に死亡した場合は養子の子が代襲相続
養子縁組が成立する要件(民法792条〜)
- 養親が成年(20歳以上)であること
- 養親は養子より年長であること
- 養子が未成年の場合は家庭裁判所の許可が必要
- 配偶者がいる場合は配偶者の同意が必要
- 養子本人の同意が必要(15歳未満は法定代理人が代わりに行う)
- 市区町村への届出(養子縁組届)で成立
普通養子と特別養子の違い
日本の養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があり、それぞれ大きく異なります。相続への影響も異なるため、どちらの養子かを確認することが重要です。
| 比較項目 | 普通養子縁組 | 特別養子縁組 |
|---|---|---|
| 対象年齢 | 制限なし(成人でも可) | 原則15歳未満(申立時) |
| 手続き | 市区町村への届出のみ | 家庭裁判所の審判が必要 |
| 実親との親子関係 | 継続する | 消滅する |
| 実親への相続権 | あり(実親・養親両方) | なし(養親のみ) |
| 離縁(取り消し) | 当事者の合意で可能 | 原則不可(子の利益のため例外あり) |
| 主な目的 | 家業承継・相続対策・再婚後の連れ子など | 子の福祉・保護(要保護児童の受け入れ等) |
| 養親の要件 | 成年・養子より年長 | 配偶者がいる(原則)・25歳以上 |
| 戸籍の記載 | 「養子」「養女」と記載 | 「長男」「長女」等(実子と区別なし) |
普通養子の場合:実親への相続権も残る
普通養子縁組の場合、実親との親子関係は継続します(民法809条)。そのため、普通養子は実親・養親の両方の法定相続人になります。相続の機会が2つあるという点で有利な面もありますが、注意が必要な点もあります。
具体例:普通養子Aの相続権(遺産各3,000万円の場合)
Aは幼いときに田中家に養子縁組。実親は山田家。
①田中家(養親)が亡くなった場合:実子Bと同様に1/2の相続分あり(1,500万円)
②山田家(実親)が亡くなった場合:実子Cと同様に1/2の相続分あり(1,500万円)
→ Aは両方の相続を受けられる(ただし相続税の基礎控除での養子算入は制限あり)
注意点:普通養子は実親の相続人でもあるため、実親が亡くなった際の相続放棄・限定承認の手続きも必要になる場合があります。実親に多額の借金がある場合は、相続放棄を検討する必要があります(相続開始を知った日から3ヶ月以内)。
特別養子の場合:実親との関係は断絶・養親のみ相続
特別養子縁組が成立すると、実親との法律上の親子関係は終了します(民法817条の9)。特別養子は実親の法定相続人ではなくなり、養親の法定相続人のみとなります。
特別養子の相続権
- 養親の相続人として実子と同等の相続分を持つ
- 実親への相続権はない(親子関係の終了)
- 実親からの遺産は受け取れない
- 実親からの遺留分請求もできない
- 戸籍には「長男」「長女」等と記載され実子と区別されない
特別養子の注意点
- 実親の借金も相続されない(メリットでもある)
- 一度成立すると原則として取り消せない
- 実親から遺贈・生前贈与を受けることは可能
- 実親の扶養義務もなくなる
- 特別養子縁組の要件が厳格(家庭裁判所の審判必要)
相続税における養子の算入制限
民法上は何人でも養子にできますが、相続税の計算では法定相続人に含められる養子の数に上限があります(相続税法15条2項)。これは、養子縁組を節税目的に乱用することを防ぐための制限です。
| 状況 | 相続税計算上の算入可能人数 |
|---|---|
| 実子がいる場合の養子(普通養子) | 1人まで |
| 実子がいない場合の養子(普通養子) | 2人まで |
| 特別養子縁組の養子 | 制限なし(実子として扱う) |
| 配偶者の実子を養子(連れ子の養子縁組) | 制限なし(実子として扱う) |
基礎控除への影響(計算例)
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。養子が1人増えると基礎控除が600万円増加し、相続税の課税対象が減ります。
| 状況 | 法定相続人数 | 基礎控除額 |
|---|---|---|
| 配偶者+実子2人(養子なし) | 3人 | 4,800万円 |
| 配偶者+実子2人+養子1人(実子ありのため1人まで) | 4人 | 5,400万円 |
| 配偶者+養子2人(実子なし) | 3人 | 4,800万円 |
| 配偶者+養子3人(実子なし・算入は2人まで) | 4人(上限で計算) | 5,400万円(3人目は算入不可) |
注意:相続税を不当に減少させることのみを目的とした養子縁組は、税務署に「養子縁組が実態を伴っていない」と判断され、基礎控除への算入が否認されることがあります(相続税法63条)。節税のみを目的にした養子縁組は法的にリスクがあります。事前に税理士に相談することをおすすめします。
孫を養子にする場合の注意点
「孫を養子にして相続税を節税したい」というご相談は多いですが、孫を養子にする場合には特有の税制上の注意があります。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 相続税の2割加算 | 孫を養子にして相続財産を受け取る場合、通常の相続税に20%が加算される(孫への直接相続は2割加算対象) |
| 一世代スキップによるメリット | 親の相続を経ずに祖父母から直接受け取れるため、相続税の課税機会が1回減る(長期的な節税効果) |
| 生命保険の受取人との関係 | 生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人数)の計算にも養子が算入される(制限の範囲内で) |
| 実際の養親子関係の必要性 | 共同生活・扶養関係など実際の親子関係の実態がないと税務上否認リスクがある |
養子縁組を活用した相続対策のポイント
養子縁組は相続対策として有効ですが、目的・メリット・デメリットを十分に理解した上で活用することが重要です。
養子縁組を解消した場合の相続権
普通養子縁組は離縁(解消)することができます。離縁が成立した時点で養親子関係が終了し、養子は養親の法定相続人ではなくなります。
| 離縁のケース | 相続権への影響 |
|---|---|
| 普通養子縁組を離縁した場合 | 離縁時点から養親の相続権を失う。実親との親子関係は継続しているため実親への相続権は残る |
| 養子が養親より先に離縁後に死亡した場合 | 離縁後は養子の子(孫)も養親の代襲相続人にはなれない |
| 特別養子縁組(原則離縁不可) | 実子と同じ扱いのため、通常は離縁できない(養子の利益のための例外は可) |
| 養親が死亡した場合の離縁 | 養親の死亡後に離縁することはできない。死亡時点で養子であれば相続権がある |
養子縁組の手続きフロー
養子縁組は「普通養子縁組」か「特別養子縁組」かによって手続きが大きく異なります。それぞれの流れを確認しておきましょう。
普通養子縁組の手続き
養子縁組届の準備
市区町村役場で「養子縁組届」の用紙を入手します。養親・養子の戸籍謄本(本籍地以外の役場への届出の場合)、証人2名の署名・押印(成人2名)が必要です。養子が未成年(15歳未満)の場合は法定代理人(実親等)が代わりに届出を行います。
家庭裁判所の許可(未成年養子の場合のみ)
養子が未成年(15歳未満を除く15〜17歳)の場合は、原則として家庭裁判所の許可を得る必要があります。ただし、養子が自己または配偶者の直系卑属(孫など)である場合は許可不要です。許可書は届出に添付します。
市区町村役場へ届出
養親または養子の本籍地、もしくは所在地の市区町村役場に届出します。本人確認書類(運転免許証等)を持参します。届出と同時に受理されれば、その日から養子縁組の効力が生じます(即日成立)。
戸籍謄本の確認・相続関係書類の整備
届出後に戸籍謄本を取得して、養子縁組が正しく記載されているかを確認しましょう。また、相続が発生した際に必要な書類(戸籍謄本一式)を把握しておくと安心です。
特別養子縁組の手続き(概要)
| 手順 | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| ①申立て | 養親候補者が家庭裁判所に特別養子縁組の審判申立てを行う | 申立て翌日〜 |
| ②試験的養育期間 | 6ヶ月以上の試験的な同居・養育の実績が必要(家庭裁判所が確認) | 6ヶ月以上 |
| ③調査・審問 | 家庭裁判所調査官による調査、審問、実親の同意確認が行われる | 数ヶ月〜 |
| ④審判 | 家庭裁判所が特別養子縁組を認める審判を出す。2週間以内に確定 | 審判確定後 |
| ⑤戸籍届出 | 審判確定後10日以内に市区町村役場に特別養子縁組の届出を行う | 10日以内 |
養子が関わる相続手続きで必要な書類
養子がいる場合の相続手続きでは、養子縁組を証明する書類が必要になります。あらかじめどの書類が必要かを把握しておきましょう。相続手続きの全体フローも参考にしてください。
| 書類名 | 目的・内容 | 取得先 |
|---|---|---|
| 被相続人の戸籍謄本(出生〜死亡) | 被相続人の養子縁組の記録を確認。養子がいることを証明 | 市区町村役場 |
| 養子の戸籍謄本 | 養子であることを証明。普通養子の場合は実親への相続権も確認 | 市区町村役場 |
| 養子縁組届受理証明書(必要に応じて) | 養子縁組の届出が受理されたことを証明する書類 | 届出した市区町村役場 |
| 改製原戸籍・除籍謄本 | 戸籍の改製前の記録。古い養子縁組の確認に必要なことがある | 市区町村役場 |
| 遺産分割協議書 | 相続人全員(養子含む)の署名・実印が必要。実印証明書も添付 | 相続人が作成 |
| 相続税申告書(課税の場合) | 養子の算入人数・2割加算の適用を正確に記載する必要あり | 税務署・税理士 |
養子縁組と遺言書の組み合わせで相続対策を確実に
養子縁組だけでは「法定相続分に従った相続」が基本となります。特定の財産を養子に渡したい場合・養子以外の相続人との配分を決めたい場合は、遺言書を作成することで希望通りの相続が実現できます。
養子縁組だけの場合
- 法定相続分に従い、実子と均等に分割される
- 特定の財産を養子に指定して渡すことはできない
- 遺産分割協議が必要(相続人全員の合意が必要)
- 実子との関係が良好でなければ協議が難航することも
- 相続税の計算では養子の算入制限が適用される
養子縁組+遺言書の場合
- 養子に特定の財産(不動産・事業用財産等)を遺贈できる
- 遺産分割協議を経ずに各相続人への分配を指定できる
- 付言事項で養子縁組の趣旨・想いを伝えることができる
- 遺言執行者を指定することでスムーズな手続きが可能
- 遺留分への配慮も遺言書の中で設計できる
実例:子のいない夫婦の場合
子のいない田中夫妻(70代)が甥の健太さん(40代)を養子にしました。
①養子縁組のみ:夫が亡くなると、配偶者(妻)と健太さん(養子)が法定相続人に。妻3/4・健太さん1/4の相続分。
②養子縁組+遺言書:「自宅は妻に、事業用資産は健太(養子)に、現預金は妻に」と遺言書で指定することで、協議なくスムーズに分配が完了。
遺言書があることで相続人同士の摩擦も避けられ、健太さんが確実に事業を引き継ぐことができました。
養子縁組に関するよくあるトラブルと防ぎ方
養子縁組を巡って相続時にトラブルが発生するケースがあります。代表的なものを確認しておきましょう。
| よくあるトラブル | 原因 | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 実子が養子の存在を知らなかった | 被相続人が生前に養子縁組の事実を伝えていなかった | 生前に家族へ説明する。遺言書の付言事項で理由を伝える |
| 節税目的養子縁組の税務否認 | 実態のない養子縁組を税務署に相続税法63条で否認される | 同居・扶養関係など実態を整えた上で税理士に事前確認 |
| 養子縁組前の養子の子が代襲相続できない | 養子縁組前に生まれた子は代襲相続資格を持たない(原則) | 遺言書で縁組前の子へも遺贈する旨を明記する |
| 離縁後の相続争い | 養親死亡前に離縁が成立したのに相続を主張するケース | 離縁の事実は戸籍に記録される。専門家に相談して確認 |
| 普通養子の実親の借金が相続に影響 | 普通養子は実親の相続人でもあるため借金も相続する可能性 | 実親死亡後3ヶ月以内に相続放棄の検討を(養親の相続とは別個) |
| 養子が相続人であることを金融機関が把握していない | 戸籍上の記載が「養子」で実子と見た目が異なることで混乱 | 相続手続きの際に出生〜死亡の全戸籍を用意して提出する |
養子と実子で相続分が変わるケースのシミュレーション
養子が何人いるかによって法定相続分の計算が変わります。法定相続分の計算方法をベースに、養子が含まれる場合の具体的なシミュレーションを確認しましょう。
【ケースA】配偶者+実子1人+普通養子1人(遺産6,000万円)
相続人:配偶者・実子・養子の3人。養子は実子と同じ扱い。
配偶者の相続分:1/2→3,000万円
実子の相続分:1/4→1,500万円
養子の相続分:1/4→1,500万円(実子と同額)
※相続税基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円(養子1人算入・実子ありのため上限)
【ケースB】配偶者+普通養子2人(実子なし)(遺産6,000万円)
相続人:配偶者・養子A・養子Bの3人。実子がいないため養子2人まで算入可能。
配偶者の相続分:1/2→3,000万円
養子Aの相続分:1/4→1,500万円
養子Bの相続分:1/4→1,500万円
※相続税基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円(養子2人算入可のため、相続人3人全員算入)
【ケースC】配偶者+実子1人+普通養子3人(遺産6,000万円)
相続人(民法上):配偶者・実子・養子A・養子B・養子Cの5人。
配偶者の相続分:1/2→3,000万円
実子・養子A・B・Cの相続分:各1/8→750万円ずつ
※相続税基礎控除の計算:実子ありのため養子は1人まで算入。法定相続人は4人として計算→3,000万円+600万円×4人=5,400万円
※養子B・Cは民法上の相続人だが相続税計算では法定相続人に含めない。ただし、実際の相続分(各750万円)は変わらない。
よくある質問
まとめ
養子は法律上の子として実子と同じ相続権を持ちます。普通養子は実親・養親両方の法定相続人になる一方、特別養子は実親との関係が終了して養親のみの相続人になります。相続税では養子の算入に制限がありますが、正当な目的での養子縁組は有効な相続対策になります。
- 養子は法律上の子→実子と同じ法定相続分・遺留分あり
- 普通養子:実親・養親両方の相続人(実親との関係継続)
- 特別養子:養親のみの相続人(実親との関係終了)
- 相続税の基礎控除算入:実子ありは1人まで・実子なしは2人まで
- 孫を養子にすると2割加算の対象(一世代スキップの節税効果あり)
- 節税のみを目的とした養子縁組は否認リスクあり
- 養子縁組と遺言書を組み合わせた対策が最も効果的
養子縁組を活用した相続対策は、遺言書と組み合わせることでより効果的です。法定相続人の範囲と法定相続分の計算方法も確認した上で、税理士・弁護士・司法書士などの専門家に相談しながら、あなたの状況に最適な相続対策を設計してください。

