INHERITANCE TAX GUIDE
相続税の申告が必要か
確認する方法
基礎控除・財産の計算を元銀行員AFPが解説
「うちは申告が必要なのか?」その疑問を基礎控除額の計算から判断フローまで、わかりやすく解説します。
「親が亡くなったとき、相続税を払わなければならないのか」と心配される方は多いです。実は日本では、相続税の申告が必要なのは全相続のうち約9〜10%程度にすぎません。ただし「うちは関係ない」と思い込んで確認を怠ると、後から申告漏れになるリスクがあります。私が銀行員時代に相談を受けた方の中にも、「財産が少ないから申告不要と思っていたら実は必要だった」というケースがありました。正確に確認することが大切です。
著者より
「うちは財産が少ないから、相続税なんて関係ないですよね」。銀行窓口でそう笑いながらおっしゃったのは、70代のご夫婦でした。ご主人が亡くなり、奥様が相談に来られたのです。「預金は500万ほど、あとは自宅だけです」と言われたので念のため場所を聞くと、都市部の住宅地でした。
路線価で試算すると、土地だけで4,000万円近い評価になりました。相続人は奥様お一人。基礎控除は3,600万円。申告が必要な状況でした。「そんなに…」と奥様は絶句されました。「申告不要と思っていたから何もしていない」とおっしゃる声が、少し震えていました。
幸い早めに気づいて期限内に対処できましたが、もし申告が漏れていたら加算税まで課される可能性がありました。「自分には関係ない」という思い込みが、一番危険です。この記事を読んで、まず自分のケースを確かめてほしいと思っています。
まず確認:相続税申告の要否を決める3つのステップ
相続税の申告が必要かどうかは、以下の3ステップで確認できます。
相続人の人数を確認し、基礎控除額を計算する
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)。相続人全員を確定することから始めます。
相続財産の総額を計算する
プラスの財産(不動産・預金・有価証券・生命保険等)の合計を求めます。債務(借金・未払い税金等)は差し引けます。
財産総額 > 基礎控除額 → 申告が必要
財産総額が基礎控除額を超えれば申告が必要。特例(小規模宅地等の特例など)を使うと控除後に0円になっても、申告書の提出は必要な場合があります。
基礎控除額の計算方法|具体例で確認
基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算します。相続人の人数によって異なります。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 | 代表的な家族構成 |
|---|---|---|
| 1人 | 3,600万円 | 配偶者のみ、または子1人のみ |
| 2人 | 4,200万円 | 配偶者+子1人、子2人、など |
| 3人 | 4,800万円 | 配偶者+子2人、子3人、など |
| 4人 | 5,400万円 | 配偶者+子3人、子4人、など |
| 5人 | 6,000万円 | 配偶者+子4人、子5人、など |
📌 「法定相続人の数」のポイント
- 相続放棄をした人も法定相続人の数に含める(放棄しても控除額計算上は除外しない)
- 養子がいる場合、実子がいれば養子は1人まで、実子がいなければ養子は2人まで算入
- 胎児は生まれれば法定相続人に含まれる
相続財産に含めるもの・含めないもの
相続財産の総額を計算するには、何を財産に含めるか正確に把握することが必要です。含まれるものと含まれないものを整理します。
| 財産の種類 | 相続財産に含まれるか | 備考・注意点 |
|---|---|---|
| 現金・預貯金 | ✅ 含む | 全金融機関の残高合計。定期預金・外貨預金も含む |
| 不動産(土地・建物) | ✅ 含む | 固定資産税評価額を基準に評価。路線価方式・倍率方式で計算 |
| 有価証券(株式・投資信託等) | ✅ 含む | 死亡日の終値で評価(または前月・前々月・前前々月の月平均終値のうち最低) |
| 生命保険金(相続人が受取人) | ⚠ みなし財産(非課税枠あり) | 非課税枠:500万円×法定相続人の数。超過分のみ課税財産に算入 |
| 死亡退職金 | ⚠ みなし財産(非課税枠あり) | 非課税枠:500万円×法定相続人の数。生命保険と非課税枠は合算ではなく別々 |
| 相続開始前3年以内の贈与財産 | ✅ 含む(持ち戻し) | 2023年度税制改正で加算期間が段階的に7年へ延長(2024年1月以降の贈与から適用) |
| 墓地・墓石・仏壇・仏具 | ❌ 含まない(非課税) | 祭祀財産は相続税の対象外。ただし投資目的のものは除く |
| 国や地方公共団体への寄付財産 | ❌ 含まない(非課税) | 相続税申告期限(10ヶ月)以内に寄付した場合は非課税 |
| 借金・未払い費用 | ❌ 差し引ける(債務控除) | 住宅ローン・消費者金融・未払い税金・医療費・葬儀費用等を差し引ける |
申告不要になる主な特例・控除
財産総額が基礎控除額を超えていても、特例や控除を適用することで相続税がゼロになる場合があります。ただし、特例を使って税額がゼロになっても申告書の提出が必要なケースがほとんどです。
🏠 小規模宅地等の特例
被相続人が居住・事業用として使っていた宅地の評価を最大80%減額できます。
- 居住用:330㎡まで80%減額
- 事業用:400㎡まで80%減額
- 貸付用:200㎡まで50%減額
- → 申告書の提出が必須
👫 配偶者の税額軽減
配偶者が相続した財産が「1億6,000万円以下」または「法定相続分以下」なら相続税は0円になります。
- 1億6,000万円まで無税
- 法定相続分内なら無税
- → 申告書の提出が必須
- 婚姻期間は関係なし
🧒 未成年者控除
相続人に18歳未満の未成年者がいる場合、「(18歳 − 年齢)× 10万円」が控除されます。
- 10歳なら(18−10)×10万円=80万円控除
- 控除しきれない分は扶養義務者から控除可能
- → 申告書の提出が必要
♿ 障害者控除
相続人に障害者がいる場合、「(85歳 − 年齢)× 10万円(特別障害者は20万円)」が控除されます。
- 一般障害者:(85歳−年齢)×10万円
- 特別障害者:(85歳−年齢)×20万円
- → 申告書の提出が必要
申告が必要なケース・不要なケースの判断フロー
| 判断ポイント | YES(該当する) | NO(該当しない) |
|---|---|---|
| 相続財産の合計額が基礎控除額を超えるか? | → 次の質問へ | → 申告不要 |
| 配偶者控除・小規模宅地特例等を使うか? | → 申告必要(税額0でも申告) | → 次の質問へ |
| 特例なしで相続税額が0円か? | → 申告不要 | → 申告必要(期限:10ヶ月) |
申告が必要かどうかのケーススタディ
| ケース | 財産の状況 | 申告の要否 |
|---|---|---|
| ケース① 配偶者+子2人(3名) |
不動産3,000万円+預金1,000万円=合計4,000万円。基礎控除4,800万円 | 申告不要 |
| ケース② 子1人(1名)のみ |
不動産2,500万円+預金2,000万円=合計4,500万円。基礎控除3,600万円 | 申告必要 |
| ケース③ 配偶者+子2人(3名) |
不動産5,000万円+預金2,000万円=合計7,000万円。基礎控除4,800万円。配偶者に不動産と預金1,000万円(計6,000万円)を相続 | 申告必要(配偶者控除で税額0) |
| ケース④ 子2人(2名) |
自宅土地3,000万円(小規模宅地特例で80%減額→600万円)+預金1,500万円=課税2,100万円。基礎控除4,200万円 | 申告必要(特例使用のため) |
| ケース⑤ 配偶者+子3人(4名) |
預金800万円+生命保険(相続人受取)2,400万円。非課税枠500万円×4名=2,000万円。課税財産:800万円+400万円=1,200万円。基礎控除5,400万円 | 申告不要 |
申告が必要かわからない場合に確認する方法
計算しても申告が必要かどうか判断できない場合は、以下の方法で確認しましょう。
税務署に直接相談する
税務署では無料の相談窓口があります。財産の概要を伝えると、申告要否の目安を教えてもらえます。予約が必要な場合があります。
税理士に相談する
不動産の評価・みなし財産の扱いなど複雑な計算は税理士に任せるのが確実です。初回相談は無料の事務所も多いです。
国税庁の相続税申告書作成コーナー
国税庁のWebサイトにある「相続税の申告書作成コーナー」では、財産を入力することで申告の要否を確認できます(無料)。
申告が必要なのに放置するとどうなるか
申告が必要なのに期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月)を過ぎてしまうと、さまざまなペナルティが発生します。
| ペナルティの種類 | 内容 | 税率・金額 |
|---|---|---|
| 無申告加算税 | 期限内に申告しなかった場合に課される | 本税の15〜20% |
| 延滞税 | 期限後に税金を納める場合に毎日加算される | 年2.4〜8.7%(年度により変動) |
| 重加算税 | 意図的な申告漏れ・仮装・隠蔽があった場合 | 本税の35〜40% |
| 特例が使えなくなる | 配偶者控除・小規模宅地特例は期限内申告が条件 | 特例なしで再計算→大幅増税の可能性 |
相続税申告が必要かどうかを確認するチェックリスト
| 確認 | チェック項目 | 備考 |
|---|---|---|
| ☐ | 法定相続人の人数を確定した | 相続放棄した人も含める |
| ☐ | 基礎控除額を計算した(3,000万円+600万円×人数) | 養子の人数制限に注意 |
| ☐ | プラスの財産(不動産・預金・有価証券・保険等)を調査した | みなし財産(保険・退職金)の非課税枠を差し引く |
| ☐ | マイナスの財産(借金・葬儀費用・未払い税金等)を控除した | 葬儀費用は実費を控除できる |
| ☐ | 財産総額と基礎控除額を比較した | 超えていれば原則として申告必要 |
| ☐ | 小規模宅地特例・配偶者控除の適用可否を確認した | 特例使用なら税額0でも申告が必要 |
| ☐ | 申告期限(相続開始を知った翌日から10ヶ月)を確認した | 期限を過ぎると加算税・延滞税が発生する |
不動産(土地・建物)の評価方法をわかりやすく解説
相続税の申告では、不動産の評価が最も複雑で、評価額次第で申告要否が変わるケースも多いです。土地・建物の評価方法を押さえておきましょう。
| 不動産の種類 | 評価方法 | 評価額の目安・特徴 |
|---|---|---|
| 市街地の土地(路線価地域) | 路線価方式:路線価×地積(㎡) | 路線価は公示地価の約80%が目安。国税庁の路線価図(毎年7月公表)で確認できる |
| 農地・山林(路線価なし地域) | 倍率方式:固定資産税評価額×倍率 | 倍率は国税庁の評価倍率表で確認。市街地より評価額が低くなるケースが多い |
| 建物(家屋) | 固定資産税評価額がそのまま相続税評価額 | 市場価格の5〜7割程度が目安。固定資産税の納税通知書(5月頃届く)で確認できる |
| 賃貸マンション(貸家建付地) | 自用地評価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合) | 賃貸に出している場合は評価額が下がる。借地権割合は地域によって異なる(30〜90%) |
⚠ 不動産の「市場価格」と「相続税評価額」は異なる
自宅の「売れる価格(時価)」と相続税の計算に使う「相続税評価額」は異なります。通常、相続税評価額は時価の6〜8割程度になります。「売ればいくらになる」という金額そのままで計算すると誤りになります。必ず路線価図・固定資産税評価証明書を確認してください。
小規模宅地等の特例を詳しく解説|80%減額の条件
小規模宅地等の特例は、相続税の計算で最も効果の大きい節税策のひとつです。適用すると土地の評価額を最大80%減額できるため、申告の要否に直結します。ただし、適用条件を満たさなければ使えないため、事前確認が必須です。
| 特例の種類 | 減額割合 | 上限面積 | 主な適用条件 |
|---|---|---|---|
| 特定居住用宅地等 (自宅土地) |
80%減額 | 330㎡まで | 配偶者が取得した場合は条件なし。子が取得した場合は「同居していた」または「別居の持ち家なし(家なき子特例)」が条件 |
| 特定事業用宅地等 (自営業の土地) |
80%減額 | 400㎡まで | 被相続人が事業に使っていた土地で、相続人が事業を引き継ぐ場合。申告期限まで事業を継続する必要あり |
| 貸付事業用宅地等 (賃貸物件の土地) |
50%減額 | 200㎡まで | アパートや駐車場などの貸付に使っていた土地。申告期限まで貸付事業を継続する必要あり |
📌 特例活用の具体的な節税効果(例)
都市部の自宅(120㎡、路線価評価額4,000万円)を配偶者が相続する場合:
- 特例適用前:土地評価額 4,000万円
- 特例適用後:4,000万円 × 20%(80%減)= 800万円
- 3,200万円の評価額が圧縮される → 基礎控除額以下になるケースも
相続税シミュレーション:申告が必要かどうかを計算する
実際に相続財産を整理して、申告が必要かどうかを計算する手順をシミュレーションで確認しましょう。
| シミュレーションの手順 | 事例A(配偶者+子2人) | 事例B(子2人のみ) |
|---|---|---|
| 法定相続人の数 | 3人(配偶者+子2人) | 2人(子2人) |
| 基礎控除額 | 4,800万円 | 4,200万円 |
| 自宅土地(路線価評価) | 3,500万円 | 3,500万円 |
| 建物(固定資産税評価) | 500万円 | 500万円 |
| 預貯金 | 1,500万円 | 1,500万円 |
| 生命保険金(相続人受取) | 2,000万円(非課税1,500万円控除→500万円算入) | 2,000万円(非課税1,000万円控除→1,000万円算入) |
| 債務・葬儀費用 | ▲200万円 | ▲200万円 |
| 課税財産の合計 | 5,800万円 | 6,300万円 |
| 基礎控除との比較 | 5,800万円>4,800万円 | 6,300万円>4,200万円 |
| 申告の要否 | 申告必要(配偶者控除・小規模宅地特例を検討) | 申告必要(小規模宅地特例を検討) |
田中由美からのアドバイス
「うちには財産がないから大丈夫」と思っていた方が、実は不動産の評価額が高くて申告が必要だったというケースを銀行員時代に何度も見ました。特に自宅不動産がある場合は、路線価や固定資産税評価額を実際に確認することが大切です。逆に「申告が必要そう」でも小規模宅地の特例や配偶者控除で税額がゼロになることも多いです。いずれにせよ相続税申告の流れを把握し、早めに税理士に相談することをおすすめします。
よくある質問
TAX FILING SOLUTION
相続税申告を「何もしなくていい」レベルで任せたい方へ
書類収集から申告書作成・提出まで一括代行。小規模宅地等の特例や配偶者控除など節税は相続専門チームが最適化。固定料金・事前見積もりで、追加請求の不安もありません。
まとめ
- ✅基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算する
- ✅財産総額(プラス−マイナス)が基礎控除を超えたら申告が必要
- ✅生命保険・退職金は「500万円×相続人数」の非課税枠がある
- ✅小規模宅地特例・配偶者控除を使う場合は税額0でも申告が必要
- ✅申告期限は相続開始を知った翌日から10ヶ月。期限超過はペナルティあり
- ✅判断に迷ったら税務署・税理士への早めの相談が最善策
申告が必要と判断した場合は相続税申告の流れと必要書類を参考に準備を進めてください。相続手続き全体の流れもあわせて確認することをおすすめします。

