LEGAL TERMS GUIDE
相続手続き中に知っておきたい
法律用語まとめ
50用語以上をわかりやすく解説|元銀行員AFP田中由美
「相続放棄」「代襲相続」「遺留分」――役所や専門家の説明に出てくる言葉が難しくて、話を聞きながら「わかったふり」をしてしまった経験はありませんか?相続手続きは、言葉の意味を誤解したまま進めると、後から取り返しのつかない損失につながることがあります。たとえば「単純承認」と「限定承認」の違いを知らずに動いてしまい、多額の借金を引き受けることになったケースも珍しくありません。この記事では、相続手続きで実際によく使われる50以上の法律用語を、元銀行員AFP田中由美が実例を交えてひとつひとつ丁寧に解説します。難しい法律の言葉を「自分ごと」として理解できるよう、わかりやすい言葉でまとめました。
この記事でわかること
- 相続人・被相続人・代襲相続など「人」に関する用語10語
- 遺産・特別受益・寄与分など「財産」に関する用語10語
- 遺言・遺贈・死因贈与など「遺言・意思表示」に関する用語10語
- 相続放棄・遺産分割協議など「手続き・法律」に関する用語15語
- 路線価・小規模宅地等の特例など「不動産・税務」に関する用語10語
- 各用語の関連条文・実例・注意点
この記事をお読みになる前に
本記事の情報は2026年4月時点のものです。法改正・税制改正により内容が変わる場合があります。個別の判断は必ず専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。
相続人に関する用語(10語)
相続手続きの第一歩は「誰が相続人なのか」を確定することです。ここでは、相続人をめぐる基本的な用語を10語解説します。
財産・遺産に関する用語(10語)
「何が相続の対象になるのか」を理解することも重要です。財産・遺産に関する10語を解説します。
遺言・意思表示に関する用語(10語)
遺言に関する用語を正しく知ることで、遺言書の種類の違いや、効力の意味が理解しやすくなります。詳しくは遺言書の種類と違いを解説した記事もあわせてご参照ください。
① 遺言(いごん・ゆいごん)
被相続人が生前に自らの意思を書面等で表示しておく法律行為。遺言は遺言者が亡くなった時点で効力が発生します。「いごん」が法律上の正式な読み方ですが、「ゆいごん」も一般的に使われます。満15歳以上で意思能力があれば遺言できます(民法961条)。
民法961条・969条
② 遺言書(いごんしょ)
遺言の内容を記した書面のこと。法律上有効な遺言書の形式は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類に限られます。これら以外の形式(口頭・録音・動画など)は法的に無効です(民法967条)。
民法967条
③ 遺贈(いぞう)
遺言によって財産を他者に与えること。相続人以外(友人・法人・団体など)へも遺贈できます。受取人を特定して渡す「特定遺贈」と、一定割合で渡す「包括遺贈」があります(民法964条)。受贈者は遺贈を放棄することもできます。
民法964条・986条
④ 死因贈与(しいんぞうよ)
「私が死んだら○○をあなたにあげる」という、死を条件とした贈与契約のこと。遺贈と似ていますが、死因贈与は相手との契約であり、相手の同意が必要です。遺贈の規定が準用されます(民法554条)。書面不要ですが、実務上は書面化が推奨されます。
民法554条
⑤ 自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)
遺言者が遺言書の全文・日付・氏名を自ら手書きし、捺印した遺言書。費用がかからず手軽ですが、形式不備で無効になるリスクがあります。2020年から法務局での保管制度が始まり、保管した場合は家庭裁判所の検認が不要です(民法968条)。
民法968条
⑥ 公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)
公証人が遺言者の口述を聞いて作成する遺言書。2人以上の証人立ち会いが必要です。原本は公証役場に保管されるため偽造・紛失のリスクがなく、検認不要で最も信頼性が高い形式です。公証人手数料は遺産額により異なります(民法969条)。
民法969条
⑦ 秘密証書遺言(ひみつしょうしょいごん)
内容を秘密にしたまま、公証人に遺言書の存在だけを証明してもらう形式。遺言者が作成した封書を公証人・証人2名の前で封印します。内容の確認がなく、形式不備で無効になる場合も。実務上はあまり使われません(民法970条)。
民法970条
⑧ 遺言執行者(いごんしっこうしゃ)
遺言の内容を実現するために選任される人のこと。相続人、弁護士、司法書士などがなれます。遺言書で指定するか、家庭裁判所が選任します。遺言執行者が選任されると、相続人は単独で相続財産を処分できなくなります(民法1012条)。
民法1006条〜1021条
⑨ 遺言能力(いごんのうりょく)
有効な遺言をするために必要な意思能力のこと。満15歳以上であることが最低条件です(民法961条)。認知症などで判断能力が著しく低下している状態では遺言能力がないとみなされ、遺言が無効となる場合があります。遺言作成時の状態が問題とされるため、医療記録が証拠になることも。
民法961条・963条
⑩ 条件付き遺贈(じょうけんつきいぞう)
「○○大学を卒業したら」「独立して起業したら」などの条件を付けた遺贈のこと。条件が成就した時点で効力が生じる「停止条件付き遺贈」と、条件が不成就の時点で効力が消える「解除条件付き遺贈」があります(民法985条2項)。
民法985条2項・1001条
手続き・法律に関する用語(15語)
相続手続きを進める上で必ず出てくる「手続き用語」を15語まとめました。相続手続きの流れと一緒に確認すると理解が深まります。
| 用語 | 一行説明 | 期限 | 関連条文 |
|---|---|---|---|
| 単純承認 | プラスもマイナスも含めてすべての財産を無条件に相続すること | 3ヶ月以内に意思表示なければ自動的に単純承認 | 民法920条・921条 |
| 限定承認 | プラスの財産の範囲内でのみ借金を引き継ぐ相続方法 | 相続開始を知った日から3ヶ月以内 | 民法922条〜937条 |
| 相続放棄 | 相続権をまったく放棄すること。家庭裁判所への申述が必要 | 相続開始を知った日から3ヶ月以内 | 民法938条〜940条 |
| 遺産分割協議 | 相続人全員で遺産の分け方を話し合うこと | 法定期限なし(相続税申告は10ヶ月) | 民法907条 |
| 遺産分割協議書 | 遺産分割の合意内容を記した書面。不動産登記や預金解約に必要 | — | 民法907条 |
| 調停 | 家庭裁判所で調停委員を交えて話し合いにより解決を図る手続き | — | 家事事件手続法244条 |
| 審判 | 調停が不成立の場合、家庭裁判所が職権で分割方法を決定すること | — | 家事事件手続法39条 |
| 相続登記 | 不動産の名義を相続人に変更する手続き。2024年4月から義務化 | 相続開始を知った日から3年以内(義務) | 不動産登記法76条の2 |
| 法定相続情報証明制度 | 法務局が相続関係を証明する一覧図を発行する制度。戸籍謄本の束が不要に | — | 不動産登記規則247条 |
| 相続財産清算人 | 相続人が全員放棄した場合などに家庭裁判所が選任する管理人 | — | 民法952条 |
| 相続税申告 | 相続税がかかる場合に税務署へ申告・納付する手続き | 相続開始を知った日から10ヶ月以内 | 相続税法27条 |
| 準確定申告 | 被相続人の死亡した年の所得について、相続人が行う確定申告 | 相続開始を知った日から4ヶ月以内 | 所得税法125条 |
| 名義変更 | 預貯金・株式・不動産などの所有者名を相続人名義に変更すること | 各機関の定める期限による | 各法令・規則による |
| 戸籍謄本 | 戸籍に記載された全員の情報を写した書類。相続人確定に必須 | — | 戸籍法10条 |
| 遺産管理人 | 相続人がいない・不明な場合に家庭裁判所が選任する管理者 | — | 民法936条・952条 |
不動産・税務に関する用語(10語)
相続税の申告や不動産の評価で必ず登場する専門用語です。特に「小規模宅地等の特例」は節税に大きく関わるため、しっかり確認しておきましょう。
① 相続税評価額
相続税の計算に用いる財産の評価額。市場価格とは異なります。不動産は路線価方式または倍率方式で算出します。評価額が低いほど相続税の負担が軽くなるため、適切に評価額を算定することが重要です。
財産評価基本通達
② 路線価(ろせんか)
道路(路線)に面した土地の1㎡あたりの評価額。国税庁が毎年7月に公表します。相続税・贈与税の土地評価に使います。公示価格の約80%水準が目安で、路線価図は国税庁ウェブサイトで無料公開されています。
財産評価基本通達11〜20
③ 固定資産税評価額
市町村が固定資産税の課税目的で算定する評価額。3年ごとに見直されます。路線価がない地域(倍率地域)の土地評価に使います。公示価格の約70%水準が目安で、固定資産税の納税通知書で確認できます。
地方税法349条
④ 取得費加算(とくひかさん)
相続した財産を相続税申告期限から3年以内に譲渡した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例。売却時の所得税を軽減できます。申告期限は売却年の翌年3月15日です。
租税特別措置法39条
⑤ 小規模宅地等の特例
被相続人が住んでいた自宅の土地(330㎡まで)を配偶者や同居の子が相続した場合、相続税評価額を最大80%減額できる特例。適用条件(同居要件・保有期間など)が細かいため事前確認が必要です。
租税特別措置法69条の4
⑥ 基礎控除(きそこうじょ)
相続税の課税遺産総額から差し引ける金額。計算式は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」。この金額以下であれば相続税は発生しません。法定相続人が多いほど基礎控除額が増えます。
相続税法15条
⑦ 配偶者控除(はいぐうしゃこうじょ)
配偶者が取得した遺産のうち「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか多い金額までは相続税がかからない制度。ただし二次相続(配偶者が亡くなった時)への影響も考慮した上で活用を判断することが重要です。
相続税法19条の2
⑧ 贈与税(ぞうよぜい)
生前に財産を贈与された場合にかかる税金。年間110万円の基礎控除があります。相続対策として生前贈与を活用する場合、相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算されます(2024年1月以降の贈与から段階的に適用拡大)。
相続税法21条の2・21条の5
⑨ 生前贈与(せいぜんぞうよ)
被相続人が生きているうちに財産を渡すこと。相続税の節税対策として使われますが、相続開始前7年以内の贈与(2024年1月以降の贈与から適用拡大)は相続財産に持ち戻しが必要です。早期からの計画が重要です。
相続税法19条
⑩ 死亡保険金の非課税枠
相続人が受け取る死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。この範囲内は相続税の課税対象外です。受取人が相続人以外の場合は非課税枠が適用されません。生命保険を上手に活用することで相続税の負担を軽減できます。
相続税法12条1項5号
田中由美の銀行員時代の実体験
ある金曜日の夕方、60代の男性がひとりで窓口にいらっしゃいました。「母が先月亡くなって、通帳の名義変更に来たんですが……」と言いながら、分厚い書類の束を取り出されました。その中に見慣れない書類が混ざっていて、よく見ると「限定承認」の申述書のコピーでした。
「お母様は多くのご資産をお持ちだったんですね」と伺うと、男性は首を振りながら「実は借金があったんです。消費者金融から合計300万円。でも家も土地もあって、どちらが多いかわからなくて」とおっしゃいました。弁護士に相談して限定承認を選んだとのことで、その判断は正しかったと思います。でも手続きが複雑で、申述の締め切りまでに相続人全員の合意を取るのが大変だったと、疲れ果てた顔でおっしゃっていました。
この時、「用語の意味さえ最初からわかっていれば、もう少し早く専門家に相談できたのに」と強く感じました。「限定承認」「単純承認」の言葉を聞いた瞬間に「これは自分でできる話ではない」と判断できていたら、時間も労力も節約できたはずです。
よく混同される用語の違い早見表
| 混同しやすいペア | A の特徴 | B の特徴 | 覚え方のポイント |
|---|---|---|---|
| 相続欠格 vs 相続廃除 | 法律上自動的に発生(家裁不要) | 被相続人の申立て+家裁の審判が必要 | 欠格=自動、廃除=申立て |
| 代襲相続 vs 数次相続 | 相続人が先に死亡(相続前に死亡) | 相続人が後から死亡(遺産分割未了のまま) | 前に死んだ→代襲、後で死んだ→数次 |
| 特別受益 vs 寄与分 | 生前にもらいすぎた→相続分を減らす | 貢献しすぎた→相続分を増やす | 受益=引く、寄与=足す |
| 遺贈 vs 死因贈与 | 遺言による一方的な意思表示 | 相手との契約(双方の同意が必要) | 遺贈=単独、死因贈与=契約 |
| 限定承認 vs 相続放棄 | プラスの範囲内でマイナスも引き継ぐ | プラスもマイナスもすべて放棄する | 限定承認=プラス内、放棄=ゼロ |
| 包括受遺者 vs 特定受遺者 | 割合指定(遺産全体の○分の1) | 財産指定(○の土地を渡す) | 包括=割合、特定=個別財産 |
| 寄与分 vs 特別寄与料 | 相続人が主張できる(相続人限定) | 相続人以外の親族が請求できる | 寄与分=相続人、特別寄与料=それ以外 |
| 相続財産 vs みなし相続財産 | 民法上の相続財産(遺産分割対象) | 相続税計算上だけ財産とみなすもの | 保険金・退職金はみなし相続財産 |
手続きのタイミングと期限一覧
用語が実際の相続手続きのどのタイミングで登場するかを整理しました。相続手続きの全体の流れと合わせて確認してください。
| 時期 | 主な手続き | この時期に出てくる用語 |
|---|---|---|
| 〜1週間 | 死亡届・葬儀の手配 | 被相続人・みなし相続財産(保険金請求) |
| 〜1ヶ月 | 遺言書の確認・相続人の確定 | 遺言書・公正証書遺言・法定相続人・代襲相続・戸籍謄本 |
| 〜3ヶ月 | 相続財産の調査・承認または放棄の選択 | 積極財産・消極財産・単純承認・限定承認・相続放棄・相続欠格・相続廃除 |
| 〜4ヶ月 | 準確定申告 | 準確定申告・相続財産清算人 |
| 〜10ヶ月 | 遺産分割協議・相続税申告 | 遺産分割協議・遺産分割協議書・特別受益・寄与分・特別寄与料・調停・審判・相続税評価額・路線価・基礎控除・配偶者控除・小規模宅地等の特例 |
| 10ヶ月〜 | 名義変更・登記・遺留分請求 | 相続登記・法定相続情報証明制度・名義変更・遺留分・遺留分侵害額・取得費加算 |
よくある質問
用語を理解した後の次のステップ
法律用語の意味を把握した上で、次は具体的な手続きを確認しましょう。以下の記事が参考になります。
まとめ
この記事では、相続手続きで登場する50以上の法律用語を5つのカテゴリに分けて解説しました。
- 相続人に関する用語(10語):法定相続人・代襲相続・相続欠格・相続廃除など
- 財産・遺産に関する用語(10語):特別受益・寄与分・特別寄与料・遺留分など
- 遺言・意思表示に関する用語(10語):遺贈・死因贈与・遺言執行者・遺言能力など
- 手続き・法律に関する用語(15語):単純承認・限定承認・相続放棄・遺産分割協議など
- 不動産・税務に関する用語(10語):路線価・小規模宅地等の特例・基礎控除など
用語の意味を理解していると、専門家との相談もスムーズになり、手続きのどのタイミングで何をすべきかを判断する力がつきます。特に「3ヶ月以内」「4ヶ月以内」「10ヶ月以内」という期限に関わる手続きは、用語の意味を誤解したまま放置すると取り返しのつかない結果になる場合があります。
わからない用語に出会ったら、この記事に戻って確認してください。相続手続きは一度だけ、慎重に進めるべき大切な手続きです。田中由美のサイト「はじめての相続」では、各手続きの詳しい解説記事も用意しています。ぜひ合わせてご活用ください。

