相続税を払えない場合の延納・物納とは?条件・手続き・注意点を元銀行員AFPが解説

相続税

INHERITANCE TAX GUIDE

相続税を払えない場合の
延納・物納とは?
条件・手続き・注意点を元銀行員AFPが解説

一括納付が難しいときの「分割払い(延納)」と「不動産で払う(物納)」の仕組みを、具体的な数字と手順でわかりやすく解説します。

「親の土地は残したいのに、相続税を現金で払う余裕がない」――こうした悩みは、不動産の多い相続では特によく起こります。相続税は原則として現金一括払いですが、それが難しい場合には延納(分割払い)や物納(財産そのもので納付)という制度があります。ただし条件や手続きが複雑で、申請期限も厳しいため、早めに内容を把握しておくことが重要です。

著者より

銀行員時代の晩秋、60代の女性が窓口に来ました。夫が亡くなり、都市部に土地と建物を相続することになったのですが、相続税が数百万円かかることがわかり、現金の手持ちがないと言うのです。「土地を売りたくない。でも税金が払えない」と、小さな声で話してくれました。

延納と物納の説明をすると、「そんな制度があるんですね」と少し表情がほぐれました。ただ申請には申告期限と同日が締め切りで、書類が揃っていないと却下されることをお伝えすると、また顔が曇りました。当時の私には、制度の説明はできても、申告書の作成まで手伝う立場にはありませんでした。

「制度を知っているだけでは足りない。手順まで届けなければ」——その思いが、この記事を書く原動力になっています。

延納・物納の基本:相続税の納付方法は3種類

相続税の納付方法には、優先順位があります。原則は現金一括払いで、それができない場合に限って延納・物納が認められます。

優先順位 納付方法 概要 利用条件
現金一括払い 申告期限(10ヶ月以内)までに全額を現金で納付 原則、全員
延納(分割払い) 最長20年の分割払い。利子税がかかる 一括払いが困難な場合
物納(財産で払う) 不動産・株式などの財産を国に納付 延納によっても金銭納付が困難な場合

⚠️ 延納・物納は申告期限と同日が申請期限

延納・物納を希望する場合は、相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月以内)と同じ日までに申請書を提出しなければなりません。期限を過ぎると申請できなくなるため、早めに準備を始めることが重要です。

延納とは?分割払いの仕組みと条件

延納とは、相続税を一括で払う代わりに、年払いで分割納付する制度です。延納期間中は「利子税」と呼ばれる利息が発生します。

延納の主な条件(すべてを満たす必要あり)

  • 相続税額が10万円を超えること
  • 納期限までに金銭で納付することが困難な事由があること
  • 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること(延納税額が100万円以下かつ延納期間が3年以下の場合は不要)
  • 納期限または納付すべき日までに延納申請書を提出すること

延納できる期間は、相続財産に占める不動産等の割合によって異なります。

不動産等の割合 動産等に係る延納税額の延納期間 不動産等に係る延納税額の延納期間
50%未満 最長5年 最長5年
50%以上75%未満 最長10年 最長15年
75%以上 最長10年 最長20年

延納の利子税率:いくら余分にかかるか

延納には利子税がかかります。利子税率は財産の種類と延納期間によって異なり、特例基準割合(各年の短期貸付金利を参考に決定)が適用されます。参考として基本の利子税率を確認しておきましょう。

延納の区分 本来の利子税率(年) 最長延納期間
不動産等に係る相続税 3.6% 20年
立木に係る相続税 2.4% 20年
動産等(不動産以外)に係る相続税 6.0% 5〜10年

💡 特例基準割合による軽減

実際の利子税率は「特例基準割合」に基づいて軽減されます。現在の低金利環境では、本来の利子税率より大幅に低い率が適用されることが多いです(例:本来6.0%でも実際は0.9%程度など)。適用税率は国税庁のウェブサイトで毎年公表されます。

相続税の延納申請書類のイメージ

延納の手続き手順:申請から許可まで

延納の申請は以下の手順で進めます。申告期限(相続開始から10ヶ月)が申請の締め切りでもあります。

1

相続税の申告書を作成する

まず通常の相続税申告書を作成し、延納希望額を確定させます。延納希望額は相続税の申告税額の範囲内です。

2

延納申請書・担保提供関係書類を作成する

「相続税延納申請書」と「金銭納付を困難とする理由書」を作成します。担保として提供する財産(不動産・有価証券など)の書類も準備します。

3

申告期限までに税務署に提出する

相続税の申告書と延納申請書を同時に提出します。申告期限(相続開始から10ヶ月)が申請期限でもあるため、同日に提出します。

4

税務署の審査・許可

申請後、税務署が内容を審査します。通常、申請から3ヶ月以内に許可・却下が通知されます。許可が下りると延納計画書(納付スケジュール)が確定します。

5

年払いで分割納付を続ける

許可された延納計画に従って毎年納付します。途中で経済状況が改善した場合は一括繰り上げ納付も可能です。また、延納中に延納継続が困難になった場合は物納への切り替えも一定の要件のもとで認められます。

物納とは?財産そのもので税金を払う制度

物納とは、現金の代わりに不動産や有価証券などの財産を国に引き渡すことで相続税を納付する制度です。延納によっても金銭納付が困難な場合に認められます。

物納の主な条件

  • 延納によっても金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること
  • 物納申請財産が物納に充てることのできる財産であること
  • 物納申請財産が物納劣後財産でないこと(後述)
  • 申告期限(相続開始から10ヶ月)までに物納申請書を提出すること

物納できる財産には優先順位があります。順位の高い財産から優先して物納に使います。

優先順位 物納できる財産の種類
第1順位
  • 不動産・船舶・国債・地方債・上場株式(特別の法律により法人の発行したものを含む)
第2順位
  • 非上場株式(特別の法律により法人の発行したものを含む)
第3順位
  • 動産(機械・器具・自動車など)
不動産で相続税を物納するイメージ

物納できない財産(物納不適格財産)

すべての財産が物納できるわけではありません。以下の財産は物納が認められません。申請前に必ず確認しましょう。

❌ 担保権が設定されている財産

抵当権・根抵当権などが設定されている不動産は物納不可。担保権を抹消すれば物納できる場合あり。

❌ 権利の帰属が不明確な財産

境界が未確定の土地、名義が明確でない財産、係争中の財産などは物納不可。

❌ 管理・処分が困難な財産

法令違反の建物が建っている土地、土壌汚染がある土地、急傾斜地など管理・売却が難しい財産は不可。

❌ 共有財産(共有者全員の合意がない場合)

他の相続人と共有している財産は、共有者全員の同意がないと物納できない。

❌ 現物納付が困難な動産

腐敗・変質しやすいもの、危険性のあるもの、国が管理できないと判断されたものは不可。

❌ 物納劣後財産(単独では不可)

市街化調整区域内の農地・山林など。他に物納できる財産がある場合は、劣後財産を先に物納することはできない。

物納の手続き手順

物納の申請は延納より書類が多く、準備に時間がかかります。早めに動くことが大切です。

手順 内容・ポイント
① 物納財産の選定 物納できる財産の中から物納に充てる財産を決める。優先順位(第1〜第3順位)に注意。
② 必要書類の収集 不動産の場合:登記事項証明書・固定資産税評価証明書・地積測量図・境界確定図など。書類が揃っていないと申請が受け付けられない。
③ 物納申請書の作成・提出 「相続税物納申請書」「金銭納付を困難とする理由書」「物納財産目録」などを作成し、申告期限(10ヶ月)までに提出。
④ 税務署の審査(収納審査) 税務署が物納財産の適格性を確認。書類の補正・追加を求められることも多い。原則として申請から3ヶ月以内に許可・却下の通知。
⑤ 財産の引き渡し 許可後、財産を国(税務署)に引き渡し、所有権移転登記などの手続きを行う。これで物納が完了。

延納の担保として使える財産の種類

延納を申請する際には、延納税額と利子税に相当する担保を提供する必要があります。担保として使える財産の種類は法律で定められています。

担保の種類 具体的な財産 使いやすさ
国債・地方債 国が発行する国債、都道府県・市区町村が発行する地方債
社債・株式等 税務署長が確実と認める有価証券(上場株式・社債など)
土地 担保権が設定されていない、第三者の権利が付いていない土地
建物・立木 保険に付されている建物、立木(山林の木)
機械・器具等の動産 保険に付されている機械・器具・自動車など
保証人の保証 税務署長が確実と認める保証人の保証(金融機関等)

⚠️ 担保に抵当権が残っている場合は使えない

住宅ローンなどの抵当権が残っている不動産は、延納の担保として提供できません。抵当権の残高が少ない場合は、金融機関と交渉して抵当権を抹消してから担保に使うことを検討しましょう。

【シミュレーション】延納でいくら払うことになるか

延納を選んだ場合、毎年の支払額と総支払額がどうなるか、具体的な数字で確認してみましょう。

【前提条件】

  • 相続税額:500万円
  • 相続財産に占める不動産の割合:80%(75%以上)
  • 延納区分:不動産等に係る相続税
  • 延納期間:10年(最長20年だが10年で試算)
  • 利子税率:年3.6%(本来の税率。特例基準割合による軽減後はさらに低くなる)
年次 元本残高 その年の利子税 年間納付額
1年目 500万円 18万円 68万円
2年目 450万円 16.2万円 66.2万円
3年目 400万円 14.4万円 64.4万円
4〜9年目 350〜50万円 12.6〜1.8万円 62.6〜51.8万円
10年目 50万円 1.8万円 51.8万円
合計 500万円 約99万円 約599万円

※ 毎年の元本返済額は均等(500万円÷10年=50万円)として試算。実際の利子税額は特例基準割合により異なります。

💡 現在の特例基準割合では負担はさらに小さい

上記は本来の利子税率(年3.6%)で計算した場合です。実際には特例基準割合が適用されるため、現在の低金利環境では年0.4〜0.9%程度になることが多く、10年間の利子税合計は上記の5分の1以下になる可能性があります。具体的な税率は申請年度の国税庁発表を確認してください。

延納・物納に必要な書類一覧

書類の不備で申請が却下されることが多いのが延納・物納の特徴です。申告期限までに揃えるべき書類を確認しておきましょう。

延納の申請に必要な主な書類
相続税延納申請書 国税庁のサイトよりダウンロード可能
金銭納付を困難とする理由書 収入・支出・財産の状況を記載
担保目録・担保提供書 担保とする財産の内容・所在等を記載
不動産担保の場合:登記事項証明書 法務局で取得。申請日から3ヶ月以内のもの
不動産担保の場合:固定資産税評価証明書 市区町村役場で取得。最新年度のもの
物納の申請に必要な主な書類(不動産の場合)
相続税物納申請書 国税庁のサイトよりダウンロード可能
金銭納付を困難とする理由書 延納申請と同様の書類
物納財産目録 物納する財産の詳細一覧
登記事項証明書 法務局で取得
固定資産税評価証明書 市区町村で取得
地積測量図・境界確定図 境界が確定している証明として必要。ない場合は測量が必要
道路・隣地等との境界確認書 隣地所有者・道路管理者との境界確認の書面
賃貸借契約書(借地・賃貸物件の場合) 第三者が使用している場合の賃貸借関係の証明

延納vs物納:どちらを選ぶべきか

延納と物納のどちらが有利かは、財産の種類・将来の収入見込み・財産への思い入れによって変わります。以下の判断フローで確認しましょう。

比較項目 延納(分割払い) 物納(財産で払う)
財産は手元に残る? ✅ 残る ❌ 手放す
追加の費用 利子税が発生する 原則なし
評価方法 関係なし 相続税評価額(時価より低い場合も)
向いているケース 毎年の収入があり、分割なら払える場合。財産を将来も活用したい場合。 収入の見込みが低く、財産を手放してでも税負担をなくしたい場合。
注意点 担保が必要。支払いが滞ると差し押さえのリスク。 評価額と売却価格の差で損になることも。書類準備が大変。

田中由美からのアドバイス

物納は「財産を手放せば税金の問題が終わる」という点では確実ですが、相続税評価額で引き渡すため、市場での売却価格より低い評価になることがほとんどです。一方、延納は手元に財産を残せる代わりに、長期にわたって利子税を払い続ける負担があります。「財産を守るためにいくら余分に払えるか」を冷静に試算してから選択することをお勧めします。

延納・物納でよくある失敗パターン

実際に延納・物納の申請をした方や相談者から聞いた、よくある失敗と対策をまとめます。

失敗① 申請期限に間に合わない

相続開始から10ヶ月が申告期限=申請期限。遺産分割の話し合いが長引いて書類が揃わず、申請できなかったケースが多い。

対策:相続開始直後から準備を始め、遅くとも7〜8ヶ月目には書類収集を完了させる。

失敗② 担保財産が要件を満たさない

延納の担保として提供しようとした不動産に抵当権が残っていたり、共有状態で担保設定できなかったりするケースがある。

対策:担保提供予定の財産の登記情報を事前に確認し、問題がある場合は早めに解消する。

失敗③ 物納財産の境界が未確定

物納に使おうとした土地の境界が確定しておらず、地積測量図が作れずに申請を却下されたケースがある。境界確定には隣地所有者との合意が必要。

対策:物納を検討するなら相続発生直後に境界確定測量を依頼する。時間が必要なため早め行動が必須。

失敗④ 延納中に支払いが滞る

延納を許可されたものの、数年後に収入が減少して年払いができなくなるケース。放置すると担保財産が差し押さえられる。

対策:支払いが難しくなる前に税務署に相談。延納条件の変更や物納への切り替えを申請できる場合がある。

延納・物納に関するよくある質問

Q. 延納中に途中で一括返済することはできますか?

できます。経済状況が改善した場合は、残りの延納税額を一括で繰り上げ納付することが可能です。繰り上げ納付した時点以降の利子税は不要になります。延納許可を受けた税務署に連絡して手続きします。

Q. 延納を許可されたあとで物納に変更できますか?

一定の要件のもとで可能です。延納の条件が変わり、延納継続が困難になった場合は「延納から物納への変更(特定物納)」を申請できます。ただし当初の申告期限から10年以内に申請する必要があります。また、物納財産の価額はその変更申請時の財産の価額(時価)となります。

Q. 物納した財産はあとで買い戻せますか?

国に引き渡した物納財産を買い戻す制度はありません。一度物納が成立すると、財産の所有権は国に移転します。ただし、国が売却するまでの期間(通常は数年以内)に、旧所有者が優先的に買い取りを申し出られる「物納財産の売払い」の手続きがある場合があります。詳細は所管の財務局に確認してください。

Q. 相続税が払えなくても申告だけはしたほうがいいですか?

はい、必ず申告してください。申告せずに放置すると、延納・物納の申請資格を失うだけでなく、無申告加算税(15〜20%)と延滞税が同時に課されます。「払えないから申告しない」は最悪の選択です。申告期限までに申告書と延納・物納の申請書をセットで提出することが重要です。

Q. 延納・物納の申請は自分でできますか?

書類を揃えて申請する手続き自体は自分でも可能ですが、担保提供書類・物納財産の登記関係書類など専門的な書類が多いため、税理士・司法書士に依頼するのが現実的です。特に物納は書類不備での却下リスクが高いため、専門家への依頼を強くお勧めします。

TAX FILING SOLUTION

相続税申告を「何もしなくていい」レベルで任せたい方へ

書類収集から申告書作成・提出まで一括代行。小規模宅地等の特例や配偶者控除など節税は相続専門チームが最適化。固定料金・事前見積もりで、追加請求の不安もありません。

この記事のまとめ

延納・物納 早わかりチェックリスト

  • 相続税の納付方法は① 現金一括 → ② 延納 → ③ 物納 の優先順位
  • 延納・物納の申請期限は相続開始から10ヶ月以内(申告期限と同日)
  • 延納は最長20年の分割払い。利子税(年0.9〜数%)がかかる
  • 物納は不動産・国債・上場株式などが対象(優先順位あり)
  • 担保権・境界未確定・共有状態の財産は物納・延納担保に使えない
  • 延納中でも条件次第で物納への切り替え(特定物納)が可能
  • 払えなくても申告だけは必ずすること。無申告は最悪の選択
タイトルとURLをコピーしました