相続 × 遺言書
公正証書遺言の
作り方と費用の目安
最も確実な遺言書の作り方——
手順・費用・証人の選び方・準備書類を詳しく解説します。
「遺言書を残したい」と思ったとき、最も確実な方法が公正証書遺言です。3種類の遺言書の中で、形式不備で無効になるリスクがほぼなく、家庭裁判所での検認も不要。銀行・法務局での手続きがスムーズに進む、信頼性の高い遺言書です。この記事では、公正証書遺言の作成手順・必要書類・費用の計算方法・証人の選び方から、自宅・病院への出張公証まで、作成に必要な情報をすべて解説します。
著者より
銀行員時代、「公正証書遺言を作っておいてよかった」とおっしゃるご遺族を何度も見てきました。相続手続きの窓口でも、公正証書遺言があると「では遺言書と検認済証明書をお持ちください」ではなく「遺言書の写し(謄本)をお持ちください」で済み、手続きがはるかにスムーズです。
一方で、「費用が心配で……」「証人を誰に頼めばいいか……」と二の足を踏む方も多い。実際に費用を計算してみると、財産額にもよりますが総額5〜20万円程度が多く、「そのくらいなら作っておきたい」と安心される方がほとんどです。
公正証書遺言は、家族への「最後の贈り物」です。この記事を読んで、一歩踏み出すきっかけにしていただけれは幸いです。
— 田中由美(AFP・相続診断士・元銀行員)
公正証書遺言とは:特徴とメリット
公正証書遺言は、公証人(法律の専門家)が遺言者の意思を確認しながら公証役場で作成する遺言書です。公証人は法務大臣が任命する公務員であり、法的効力のある証明文書の作成を職務とします。原本は公証役場が保管するため、偽造・紛失のリスクがありません。
公正証書遺言のメリット
- 形式不備で無効になるリスクがほぼゼロ
- 家庭裁判所での検認が不要(死後すぐに手続き可能)
- 原本を公証役場が保管(紛失・偽造リスクなし)
- 公証人連合会の検索システムで遺言書の存在を確認できる
- 意思能力の確認が公証人により行われる(後の争いを防ぐ)
- 銀行・法務局での手続きがスムーズ
公正証書遺言のデメリット
- 費用がかかる(手数料+証人費用など)
- 証人2名が必要(手配が必要)
- 公証役場に出向く必要がある(出張は可能だが費用加算)
- 内容が公証人・証人に知られる
- 作成まで数週間の準備が必要
| 比較項目 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言(法務局保管) |
|---|---|---|
| 費用 | 5〜30万円程度 | 3,900円 |
| 検認 | 不要 | 不要 |
| 無効リスク | ほぼゼロ | 形式チェックあり・内容は未チェック |
| 証人 | 2名必要 | 不要 |
| 内容の秘密 | 公証人・証人に知られる | 秘密にできる |
| 原本保管 | 公証役場(紛失リスクなし) | 法務局(紛失リスクなし) |
| こんな人に向く | 財産が複雑・確実に有効にしたい・争いを防ぎたい | 費用を抑えたい・財産がシンプル |
公正証書遺言の作成手順:5つのステップ
公正証書遺言の作成は、準備から完成まで通常2〜4週間程度かかります。余裕をもって進めましょう。
必要書類の詳細:何を用意すればいいか
書類は状況によって異なります。公証役場に事前確認することをおすすめします。以下は一般的なケースの目安です。
| 書類の種類 | 目的 | 取得先・費用 |
|---|---|---|
| 遺言者の印鑑登録証明書 | 本人確認・実印の証明 | 住民登録のある市区町村役場/300円程度 |
| 遺言者の本人確認書類 | 公証役場での本人確認 | 運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等(いずれか1点) |
| 相続人(受取人)の戸籍謄本 | 遺言者との続柄を証明 | 各相続人の本籍地の市区町村役場/450〜750円 |
| 不動産の登記事項証明書 | 不動産の正確な情報(所在・地番・家屋番号等) | 法務局(窓口600円・オンライン500円) |
| 不動産の固定資産評価証明書 | 公証人手数料の計算基礎(不動産の評価額確認) | 不動産所在地の市区町村役場/数百円 |
| 預金通帳のコピー等 | 口座情報(金融機関名・支店・口座番号)の確認 | 自己保管のもの(コピーで可) |
| 証人の情報 | 証人の氏名・住所・生年月日・職業 | 証人本人から事前に書面で提出してもらう(または当日持参) |
公証人手数料の計算方法
公証人手数料は、遺言で処分する財産の価額に応じて公証人手数料令の別表で定められています。財産を受け取る人(受取人)ごとに計算し、合計が総手数料になります。
| 受取人1人あたりの財産価額 | 公証人手数料 |
|---|---|
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 11,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 17,000円 |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 23,000円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 29,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 43,000円 |
| 1億円超〜3億円以下 | 43,000円 + 5,000円(超過1,000万円ごと) |
手数料の計算例:具体的なシミュレーション
【例①】自宅(評価額2,500万円)を配偶者に、預金(500万円)を子1人に渡す場合
配偶者への財産(2,500万円):23,000円
子への財産(500万円):17,000円
遺言書全体の枚数加算(4枚超の場合):250円×超過枚数
基本手数料合計:40,000円+加算
+ 正本・謄本の作成費用(250円×枚数×通数)
+ 証人2名への謝礼(各5,000〜10,000円程度)
→ 総額目安:5〜8万円程度
【例②】全財産(総額8,000万円)を配偶者1人に渡す場合
配偶者への財産(8,000万円):43,000円
+ 正本・謄本・証人費用等
→ 総額目安:6〜9万円程度
💡 手数料の加算要素
- 正本・謄本の費用:1枚につき250円。遺言書が長くなるほど加算
- 証人への謝礼:法律上の規定はないが、友人・知人への謝礼として1〜2万円が目安。弁護士・司法書士が証人になる場合は別途報酬
- 公証役場への交通費:遠方の場合は交通費・日当が別途かかる
- 弁護士・司法書士への依頼料:遺言書作成のサポートを依頼する場合は5〜20万円程度の報酬が加算
証人の選び方:誰に頼むべきか
証人の選定は、公正証書遺言作成の中で最も悩む点のひとつです。証人は遺言書の内容を知ることになるため、信頼できる人を選ぶことが重要です。
証人に向いている人
- 信頼できる友人・知人(成人・利害関係なし)
- 弁護士・司法書士・行政書士
- 公証役場が紹介する証人(有料・1〜2万円/人程度)
- 職場の同僚・上司(相続人でない人)
証人になれない人(民法974条)
- 未成年者
- 推定相続人(子・配偶者・親等)
- 受遺者(遺言書で財産をもらう人)
- 上記の配偶者・直系血族(孫・親等)
- 公証人の配偶者・4親等内の親族等
⚠ 証人の選び方でよくある失敗
「長男の妻」や「次男の子(孫)」を証人にすると欠格事由に該当し、遺言書が無効になる場合があります。「相続人の配偶者は大丈夫では?」と思われがちですが、受遺者の配偶者・直系血族も証人になれません。「相続や遺産とまったく関係のない第三者」を選ぶことが原則です。迷う場合は公証役場や弁護士・司法書士に相談してください。
公証役場に出向けない場合:出張公証という選択肢
病気・高齢・身体障害などで公証役場への出向が難しい場合は、公証人に自宅・病院・介護施設へ出張してもらうことができます。
| 出張公証の概要 | 内容 |
|---|---|
| 出張先 | 自宅・病院・介護施設・老人ホームなど |
| 追加費用 | 通常の手数料の1.5倍 + 交通費・日当(公証人の移動費) |
| 証人 | 出張先にも証人2名の立ち合いが必要 |
| 意思能力の確認 | 公証人が遺言者の意思能力を直接確認。認知症が疑われる場合は医師の診断書が必要なことも |
| 署名できない場合 | 押印できない・署名できない場合でも「署名代理」の制度あり。公証人が代理署名できる |
認知症が疑われる場合の注意点
認知症があっても「遺言能力(遺言の内容を理解する能力)」がある状態であれば、遺言書は有効です。しかし後に相続人間で「意思能力がなかった」と争われるリスクがあります。出張公証の際は、医師の診断書(作成日直近のもの)を取得しておくことが争い防止に有効です。公証人に事前に相談すると、どのような記録を残すべきか指示してもらえます。
公正証書遺言の保管と変更・取り消し方法
公正証書遺言の原本は公証役場が保管するため、手元には「正本」と「謄本」が渡されます。それぞれの使い道と、変更・取り消しの方法を確認しておきましょう。
正本の使い方
- 遺言執行の手続き(銀行解約・不動産名義変更)で使用
- 遺言執行者に渡すことが多い
- 紛失した場合は公証役場で再発行可能(手数料あり)
謄本の使い方
- 自分の手元に保管しておく控え
- 手続きによっては謄本で対応できる場合がある
- 税理士・司法書士への相談資料として提供
公正証書遺言の変更・取り消し方法
公正証書遺言はいつでも変更・取り消しできます。ただし、変更の方法によっては新旧の遺言書が並立することになります。
公正証書遺言の作成を弁護士・司法書士に依頼する場合
内容が決まっていれば公証役場に直接相談することもできますが、専門家に依頼すると次のようなメリットがあります。専門家の選び方も参考にしてください。
専門家に依頼するメリット
- 内容の法的有効性・遺留分のチェック
- 証人の手配を依頼できる
- 公証役場との事前調整を代行
- 財産の特定・表記の正確化をサポート
- 遺言執行者として指定することができる
費用の目安(報酬)
- 行政書士:5〜10万円程度
- 司法書士:5〜15万円程度
- 弁護士:10〜30万円程度
- 公証人手数料は別途
事務所により異なります。初回相談無料の事務所も多い
公正証書遺言に書けること・書けないこと
遺言書に書ける内容(遺言事項)は法律で定められています。書ける内容と書いても法的効力がない内容を事前に整理しておきましょう。
| 項目 | 法的効力 | ポイント |
|---|---|---|
| 財産の相続・遺贈(誰に何を渡すか) | あり | 不動産・預金・株式・その他財産を特定して指定する |
| 遺言執行者の指定 | あり | 相続人や弁護士・司法書士などを遺言執行者に指定できる |
| 子の認知 | あり | 婚外子を認知する旨を遺言書に記すと認知の法的効力が生じる |
| 相続人の廃除・廃除の取り消し | あり | 著しい非行のある相続人の廃除を家庭裁判所に申立てることを遺言書に記せる |
| 未成年後見人・後見監督人の指定 | あり | 遺言者が親権者である場合、子の後見人を指定できる |
| 付言事項(家族へのメッセージ) | 法的効力なし | 記載は可能。法的拘束力はないが家族への思いを伝えられる |
| 葬儀・埋葬の方法の指定 | 法的効力なし | 「散骨してほしい」「家族葬で」等の記載は可能だが拘束力なし。エンディングノートに書く方が確実 |
| 負担付き遺贈(条件をつけた遺贈) | あり | 「自宅を渡す代わりに母の面倒をみること」等の条件付き遺贈が可能 |
| 共同遺言(2人以上が同一の遺言書に署名) | 禁止(無効) | 夫婦が一緒に1通の遺言書に記入するのは民法975条で禁止。それぞれ別々に作成すること |
公正証書遺言の定期的な見直しタイミング
一度作成した公正証書遺言は、生涯有効です。しかし、財産内容や家族構成が変わった際には内容を見直すことをおすすめします。
公正証書遺言でよくある失敗と対策
公正証書遺言は公証人がチェックするため形式上の無効リスクはほぼありませんが、内容の不備や準備不足による問題は起こります。よくある失敗と対策を事前に把握しておきましょう。
| よくある失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 財産の特定が曖昧(「預金すべて」だけ記載) | 銀行ごとに「この口座が対象か」で争いが起きる | 金融機関名・支店名・口座番号まで特定して記載する |
| 遺言書で言及した財産を後で売却・処分 | 該当の遺言事項が効力を失い、残余財産の扱いで揉める | 「その時点で残る財産すべて」を対象にする包括的記載を活用する |
| 遺留分を大幅に侵害する内容を書いた | 遺留分侵害額請求が起き、相続人間でトラブルになる | 作成前に弁護士・税理士に遺留分試算を依頼する |
| 証人が欠格者と知らずに立ち合わせた | 公正証書遺言が無効になる可能性がある | 民法974条の欠格者リストを必ず確認し、公証役場に事前相談する |
| 遺言執行者を指定しなかった | 銀行口座解約・不動産名義変更に相続人全員の協力が必要になり手続きが複雑化 | 必ず遺言執行者を指定する。弁護士・司法書士への依頼も検討 |
| 「すべての財産を長男に」と書き遺族に知らせなかった | 他の相続人が遺言書の存在を知らずに遺産分割協議を進め、後で二度手間になる | 遺言書の存在と遺言執行者を生前に家族に伝えておく |
| 夫婦連名で遺言書を1通作成した | 民法975条違反で遺言書全体が無効になる | 必ずそれぞれが別々の遺言書を作成する |
よくある質問
まとめ
公正証書遺言は、費用はかかりますが最も確実で、使いやすい遺言書です。検認不要・無効リスクほぼゼロ・紛失なし——財産を確実に家族に届けたいなら、公正証書遺言が最善の選択です。
- 公証人が作成するため形式不備で無効になるリスクがほぼゼロ
- 検認不要。死後すぐに遺言執行の手続きに入れる
- 費用の目安:公証人手数料5,000〜43,000円(財産額による)+証人費用+書類代
- 証人2名は推定相続人・受遺者・その配偶者・直系血族は不可
- 病院・自宅への出張公証も可能(費用1.5倍+交通費)
- 変更はいつでも可能——新しい公正証書遺言で旧遺言書を撤回する
- 2000年以降の公正証書遺言は全国の公証役場で検索できる
遺言書の種類の比較や発見後の手続きも合わせて確認し、相続手続きの全体的な流れの中で遺言書の準備を進めましょう。

