遺言書の内容に納得できないとき遺留分を請求する方法|計算・手順・期限

遺留分侵害額請求のイメージ|遺言書と相続人の話し合い 遺言書

相続 × 遺言書

遺言書に納得できない——
遺留分を請求する方法

「すべて長男に」では不公平——
遺留分の割合・計算・請求手順・1年の期限を詳しく解説します。

遺留分の割合早見表 侵害額の計算方法 請求の手順と期限

「遺言書を開けたら、財産のほぼすべてが長男に渡る内容だった。私(次男)には何も残らないの……?」——そんな悲痛な声を相談窓口で聞くことは少なくありません。遺言書の内容は基本的に故人の意思として尊重されます。しかし、法律は一定の近しい相続人を守るために「遺留分」という制度を設けています。遺言書によって相続分をゼロにされた場合でも、遺留分を侵害されている相続人は「遺留分侵害額請求」により金銭を受け取る権利があります。この記事では、遺留分の割合・計算方法・請求の手順・期限・生前贈与との関係まで詳しく解説します。

著者より

「先生、私、何も間違ったことしてないですよね……?」
相談を終えた50代の女性が立ち上がりながら、そっとつぶやいた言葉です。彼女は長年、遠方に住む義父母の通院の付き添いや入院手続きを引き受けてきた。義父が亡くなって初めて遺言書を見たとき、全財産は夫の兄に渡るという内容だった。夫の相続分はゼロ。義父の遺言だから黙って受け入れるべきなのかと、泣きながら話してくれました。
遺留分は、そういう「理不尽な不公平」から相続人を守るための制度です。遺言書があっても、一定の相続人には最低限もらえる権利が法律で保障されています。「泣き寝入りしなくていい」ということを、まずお伝えしたかったのです。
— 田中由美(AFP・相続診断士・元銀行員)

遺留分とは:遺言書があっても認められる最低限の相続権

遺留分とは、一定の相続人に対して民法が保障する最低限の取り分です(民法1042条)。故人(被相続人)が「すべての財産を長男に渡す」という遺言書を書いても、遺留分を有する相続人(兄弟姉妹を除く)は遺留分相当の金銭を請求できます。

遺留分を持つ相続人

  • 配偶者
  • 子(養子・認知した子も含む)
  • 直系尊属(父母・祖父母)

※子が亡くなっている場合は代襲相続人(孫など)も遺留分あり

遺留分を持たない相続人

  • 兄弟姉妹(甥・姪も含む)

兄弟姉妹は法定相続人ですが、遺留分は認められていません。遺言書で相続分ゼロにされると何も請求できません。

遺留分の割合:相続人のパターン別早見表

遺留分の割合は、相続人のパターンによって異なります。まず「全体の遺留分割合」が決まり、それに各相続人の法定相続分割合をかけると「個人の遺留分割合」が出ます(民法1042条)。

相続人のパターン 全体の遺留分割合 各自の遺留分割合
配偶者のみ 1/2 配偶者:1/2
子のみ(1人) 1/2 子:1/2
子のみ(2人) 1/2 各子:1/4(2人で均等割り)
配偶者+子(1人) 1/2 配偶者:1/4、子:1/4
配偶者+子(2人) 1/2 配偶者:1/4、各子:1/8
配偶者+父母 1/2 配偶者:1/3、父母全体:1/6
直系尊属のみ(子なし) 1/3 父母全体:1/3(直系尊属のみの場合のみ1/3)
兄弟姉妹のみ なし 遺留分なし(民法1042条の対象外)

💡 遺留分は「相続財産全体に対する割合」で考える

遺留分は「法定相続分の半分」が基本(直系尊属のみの場合は1/3)と覚えると理解しやすいです。たとえば、配偶者と子1人の場合、法定相続分は配偶者1/2・子1/2。その半分なので遺留分は配偶者1/4・子1/4。二人分を合計すると全体の遺留分が1/2になります。

遺留分侵害額の計算方法

遺留分侵害額は「本来受け取るべき遺留分額」から「実際に受け取る財産」を引いて計算します。計算の基礎となる財産には相続財産だけでなく一定の生前贈与も加算されます(民法1043条・1044条)。

遺留分侵害額の計算式

① 遺留分算定の基礎となる財産額
  = 相続財産の評価額
   + 相続人への生前贈与(相続開始前10年以内のもの)
   + 相続人以外への生前贈与(相続開始前1年以内のもの)
   - 被相続人の債務(借入金・未払い税金等)

② 各相続人の遺留分額 = ① × 各相続人の遺留分割合

③ 遺留分侵害額 = ② − 遺言書・贈与等で実際に受け取る額

【計算例①】「すべて長男に」という遺言書。次男は遺留分をいくら請求できるか?

状況:父が死亡。相続人は母・長男・次男の3人。財産は3,000万円(債務なし)。
遺言書の内容:「すべての財産を長男に渡す」

① 遺留分算定の基礎財産:3,000万円(生前贈与なし)
② 次男の遺留分割合:1/2(全体)× 1/4(次男の法定相続分)= 1/8
③ 次男の遺留分額:3,000万円 × 1/8 = 375万円
④ 次男が実際に受け取る財産:0円(遺言書では長男がすべて取得)
⑤ 遺留分侵害額:375万円 − 0円 = 375万円を長男に請求できる

【計算例②】生前贈与が加算される場合

状況:父が死亡。相続人は長男・次男の2人(配偶者なし)。相続財産は1,000万円。長男は3年前に父から住宅購入資金1,000万円の贈与を受けていた(10年以内のため持戻し対象)。

① 遺留分算定の基礎財産:1,000万円(相続財産)+ 1,000万円(長男への贈与)= 2,000万円
② 次男の遺留分割合:1/2(全体)× 1/2(次男の法定相続分)= 1/4
③ 次男の遺留分額:2,000万円 × 1/4 = 500万円
④ 遺言書が「長男にすべて」だった場合、次男の受取額は0円
⑤ 遺留分侵害額:500万円 − 0円 = 500万円を長男に請求できる

2019年の相続法改正:「物」ではなく「お金」で請求できるようになった

2019年7月1日に施行された相続法改正(民法1046条)により、遺留分の請求方法が大きく変わりました。旧制度では「遺留分減殺請求」として、遺贈された不動産などの現物を取り戻す形でした。改正後は金銭での支払いを請求する「遺留分侵害額請求」に一本化されました。

比較項目 旧制度(2019年6月以前) 新制度(2019年7月以降)
請求の名称 遺留分減殺請求 遺留分侵害額請求
請求の対象 財産(現物)の返還 金銭の支払い
不動産の共有問題 不動産が自動的に共有状態になり揉めやすかった 金銭のみ。不動産の共有は発生しない
支払が困難な場合 裁判所が支払期限の猶予を認める制度あり
適用される相続 2019年6月30日以前の相続開始 2019年7月1日以降の相続開始

遺留分侵害額請求の手順:4つのステップ

遺留分侵害額請求は、相手方(遺留分を侵害している相続人・受遺者)への意思表示から始まります。期限(1年)を守るために、早めに動き出すことが重要です。

STEP 1 遺留分の侵害があるか確認する

遺言書を発見したら、まず遺言書の内容と自分の法定相続分・遺留分を照らし合わせます。「自分の遺留分割合×算定基礎財産額」が「遺言書で受け取る財産」を上回っている場合は侵害があります。計算が複雑な場合は弁護士・司法書士に相談して確認しましょう。相続財産の評価額(特に不動産)の把握も必要です。

STEP 2 内容証明郵便で請求の意思表示をする(1年以内)

遺留分侵害額請求は、相手方への意思表示によって行います。口頭でも法律上は有効ですが、後で「言った・言わない」の争いを防ぐために内容証明郵便で行うことが強く推奨されます。

  • 記載内容:請求する旨・被相続人の氏名・死亡日・請求金額(概算でも可)
  • 郵便局で内容証明郵便として差し出す(配達証明付きで送ると証拠になる)
  • 期限(1年)はこの「意思表示の到達日」で判断されるため、期限ギリギリの場合は特に注意
STEP 3 当事者間で金額・支払い方法を交渉する

内容証明郵便を送った後、相手方と金額・支払い時期・支払い方法について話し合います。不動産の評価額の見方、生前贈与の計算の仕方など、当事者だけで合意が難しい場合は弁護士が交渉代理人となることができます。合意した場合は「遺留分侵害額の合意書」を書面で取り交わします。

STEP 4 合意できない場合は家庭裁判所で調停・訴訟

当事者間の話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額の調停を申立てます。調停でも解決しない場合は地方裁判所への訴訟(遺留分侵害額請求訴訟)に移行します。訴訟では弁護士への依頼が実質的に必要になります。いずれの場合も期限内に意思表示(STEP2)を済ませていることが前提です。

遺留分請求の期限:1年を過ぎると権利消滅(民法1048条)

遺留分侵害額請求には消滅時効があります(民法1048条)。期限を過ぎると権利が消滅し、いくら侵害があっても請求できなくなります。

期限の種類 期間 起算点
消滅時効(短期) 1年 遺留分侵害の事実(遺言書の内容)を知った日から
除斥期間(長期) 10年 相続開始の日から(知らなくても10年で消滅)

⚠ 「知った日」から1年——遺言書を見た日が起算点になる

「遺留分侵害の事実を知った日」とは、一般的に遺言書の内容を知った日(遺言書を見た日・内容を教えられた日)を指します。相続発生から何年も経ってから遺言書が見つかった場合でも、見つかった日から1年以内に請求しなければなりません。「もう少し考えてから……」と先延ばしにしているうちに1年が経過するケースが実際にあるため、遺言書の内容を確認したらすぐに弁護士に相談することをおすすめします。

生前贈与と遺留分の関係:10年以内の贈与は加算される

遺留分の計算で見落とされやすいのが生前贈与の扱いです。特定の相続人に多額の生前贈与をして、残りの財産だけを遺言書で分けるという「遺留分逃れ」のような行為を防ぐため、民法は一定期間内の生前贈与を遺留分の算定基礎に加算する仕組みを設けています。

贈与の相手 算定基礎への加算期間 根拠
相続人への贈与 相続開始前10年以内 民法1044条3項(2019年改正)
相続人以外への贈与(第三者・内縁者等) 相続開始前1年以内 民法1044条1項
当事者双方が遺留分侵害を知ってした贈与 期間制限なし 民法1044条1項ただし書き(悪意の贈与)

「10年前の贈与なら大丈夫」とは限らない

相続人以外(たとえば故人の再婚相手、内縁の配偶者、第三者)への贈与は原則1年以内のものだけ算定基礎に加算されます。一方、相続人への贈与は10年以内のものが対象です。ただし「双方が遺留分を侵害することを知ってした贈与(悪意の贈与)」は期間制限なく加算される点に注意してください。

遺留分を請求された側(長男・受遺者)の対応

遺留分侵害額請求を受けた側(遺言書で多く財産をもらった相続人・受遺者)はどう対応すればよいでしょうか。

① 請求額が妥当かどうか確認する

相手方が主張する遺留分侵害額が正しいか(財産評価・生前贈与の計算等)を弁護士・司法書士に確認します。評価額が争いになることも多く、特に不動産は評価方法によって金額が変わります。

② 支払が困難な場合は裁判所に期限の猶予を申立てる

自宅(不動産)を相続したが現金がないため遺留分を支払えない、という状況はよくあります。この場合、裁判所に支払期限の猶予を申立てることができます(民法1047条5項)。猶予期間中は分割払いなどの交渉も可能です。

③ 弁護士を通じて和解交渉を行う

請求者と直接交渉するよりも、弁護士を代理人として立てた方がスムーズなことが多いです。感情的な対立を避けながら現実的な金額・支払い条件で和解できる可能性があります。訴訟に発展するケースは少数で、多くは交渉・調停で解決しています。

遺留分が請求できないケース・事前に減らす方法

すべての場合に遺留分を請求できるわけではありません。また、遺言書を作成する側の立場から遺留分への配慮を事前に行う方法もあります。

遺留分を請求できないケース

  • 請求期限(1年・10年)を過ぎた
  • 兄弟姉妹・甥姪(遺留分なし)
  • 相続放棄をした相続人
  • 廃除・欠格により相続権を失った相続人
  • 遺留分の放棄をした相続人(家庭裁判所の許可が必要)

遺言書作成時に遺留分を配慮する方法

  • 各相続人の遺留分を下回らないよう財産配分を設計する
  • 生命保険の受取人指定(死亡保険金は原則遺留分の算定基礎に含まれない)
  • 遺留分放棄の合意(事前に家庭裁判所へ申立て)
  • 中小企業経営者:経営承継円滑化法の除外合意・固定合意の活用
  • 弁護士・税理士に遺留分試算を依頼して公平な遺言書を作成

💡 死亡保険金は「原則」遺留分の算定基礎に含まれない

生命保険の死亡保険金は、受取人固有の財産として「相続財産」に含まれないのが原則です(最高裁判例)。そのため遺留分の算定基礎にも原則として含まれません。ただし、遺産総額に占める保険金の割合が著しく大きい場合など、特段の事情があれば遺留分算定に加算される場合があることを判例は認めています(最判平16・10・29)。保険金の活用は専門家に相談の上で設計することをおすすめします。

遺留分請求のタイムライン:発生から解決まで

遺留分侵害額請求が発生してから解決するまで、どのような流れになるか全体像を把握しておきましょう。期限の管理が特に重要です。

時期 やること ポイント
遺言書確認後・即日 遺留分侵害の有無を確認する この日が「1年の起算点」になる。財産の概算と遺留分割合を照合する
〜1ヶ月以内 弁護士に相談・侵害額を計算 財産評価(不動産・株式等)の把握。生前贈与の有無を調査
〜3ヶ月以内 内容証明郵便を送付(意思表示) 期限(1年)を確保しつつ早期に意思表示。金額は概算でも可
〜6ヶ月以内 当事者間で交渉・合意 合意できれば「遺留分侵害額合意書」を締結。合意できなければ調停へ
6ヶ月〜1年以内 家庭裁判所の調停(必要な場合) 調停は通常6ヶ月〜1年かかるため早めに申立てる
調停不成立後 地方裁判所に訴訟提起 遺留分侵害額請求訴訟(弁護士費用と時間が大きくかかる)

遺留分トラブルのよくある事例:こんな場合はどうなる?

実際の遺留分トラブルでよく見られるパターンをケース別に解説します。自分の状況と照らし合わせて参考にしてください。

【ケース①】「すべての財産を内縁の妻に」という遺言書——子の遺留分は?

状況:父が遺言書で「すべての財産を内縁の妻(Bさん)に遺贈する」と残した。相続人は子(長男・次男)のみ。財産は4,000万円。

各子の遺留分:1/2(全体)× 1/2(各子の法定相続分)= 1/4。長男・次男それぞれ4,000万円 × 1/4 = 1,000万円ずつ請求できる。

内縁の妻(Bさん)への請求:内縁の妻は法定相続人ではなく「受遺者」として遺贈を受けているため、長男・次男はBさんに対して遺留分侵害額を請求できる。

→ 内縁関係でも遺贈による遺留分侵害が成立する。生前贈与をBさんに多くしていた場合はさらに持戻し計算も行われる。

【ケース②】財産は自宅のみ。長男が相続したが現金がない——支払えない場合は?

状況:遺言書で長男が自宅(2,000万円)を全部相続。次男の遺留分は500万円。しかし長男には預金がほとんどなく、500万円を一括で支払えない。

対応①——分割払いの交渉:次男と合意の上で分割払いとする。「1年以内に500万円を支払う」という合意書を作成する。

対応②——裁判所への猶予申立て:一括払いが困難な場合、裁判所に支払い期限の猶予を申立てることができる(民法1047条5項)。猶予中は法定利率の利息が加算される。

→ 「お金がないから払えない」という一方的な拒否は認められない。自宅の一部を売却するか、猶予を申立てて分割払いするかなど現実的な解決策を探る必要がある。

【ケース③】遺言書も生前贈与もない——兄が預金を引き出していた場合

状況:母が死亡。遺言書なし。相続人は長男・次男の2人。母の預金残高を調べると、母の生前に長男が1,000万円を引き出していたことが判明。残った財産は500万円のみ。

遺留分との関係:この場合は「遺留分侵害」ではなく「不法行為・不当利得」の問題になりえる。無断引き出しであれば返還請求が可能。遺産分割協議でも「使途不明金」として問題提起できる。

→ 遺言書がない場合の不正引き出しは遺留分請求ではなく別の法的手段(不当利得返還請求・不法行為損害賠償)で対応。弁護士への早期相談が重要。

遺留分に関する注意点まとめ:見落としがちな5つのポイント

遺留分請求を検討する際に、特に注意が必要な点を整理しました。

注意① 相続放棄後の遺留分請求はできない

「借金があるから相続放棄したが、その後に財産も多かったとわかった。遺留分だけでも請求したい」——これはできません。相続放棄をすると相続人の地位を失うため、遺留分も同時に失います。相続放棄と遺留分請求は二者択一です。

注意② 遺留分の算定は「相続開始時点の評価額」が基準

不動産の評価額は相続開始時(被相続人が亡くなった日)を基準にします。その後に不動産価格が上がっても下がっても、原則として相続開始時の時価で計算します。評価額の算定方法(路線価・実勢価格・不動産鑑定)をめぐって争いになることも多いです。

注意③ 遺留分を受け取っても相続税の申告は必要な場合がある

遺留分侵害額請求で受け取った金銭は相続税の課税対象です。すでに相続税の申告・納付が終わっている場合は「更正の請求」で修正が必要になることがあります。遺留分請求が確定した後に速やかに税理士に確認しましょう。

注意④ 遺留分は相続人間だけでなく受遺者(第三者)にも請求できる

遺言書で相続人以外の第三者(内縁の妻、知人、法人等)が遺贈を受けている場合、その受遺者に対して遺留分侵害額を請求できます。ただし請求する順序があり、まず受遺者から、次に受贈者(贈与を受けた人)への順で請求します。

注意⑤ 遺言書に「遺留分を放棄しろ」と書いても効力はない

「相続人はすべて遺留分を放棄すること」という内容を遺言書に書いても、法的に無効です。遺留分の放棄は本人が家庭裁判所に申立てるか(相続開始前)、相続開始後に当事者間で合意する形でしか行えません。「遺言書に書かれているから放棄しないといけない」という思い込みに注意してください。

遺留分請求で専門家(弁護士)が必要な場面

遺留分侵害額請求は、相続人同士の権利の対立を伴う手続きです。次のような場合は、早めに弁護士への相談をおすすめします。

状況 弁護士が必要な理由
期限(1年)が迫っている 内容証明郵便の作成・送付を急ぐ必要がある。弁護士名義での通知は相手方に対してより明確な効果がある
相手方が話し合いに応じない 調停・訴訟への移行準備が必要。弁護士なしでは手続きが困難
財産評価額で争いがある 不動産鑑定・株式評価等の専門知識が必要。弁護士が鑑定人の選定を調整できる
多額の生前贈与が絡んでいる 10年以内の贈与の立証・計算は複雑。通帳記録の取り寄せ・証拠収集が必要
遺言書の有効性自体が疑わしい 遺留分請求と並行して遺言書の無効確認の検討が必要になることがある

よくある質問

Q. 遺留分侵害額請求は相手方に何を請求するのですか?お金ですか?不動産ですか?

2019年7月1日以降の相続では、金銭(お金)の支払いを請求します(遺留分侵害額請求・民法1046条)。旧制度(遺留分減殺請求)では不動産などの現物を取り戻すことができましたが、現在は金銭による支払いが基本です。たとえば「相続人Aが自宅を全部相続した」場合でも、自宅を直接分けてもらうのではなく、遺留分相当額の「お金」を支払ってもらいます。自宅を売らなくてもよくなったため、受遺者側にとっても旧制度より対応しやすくなっています。

Q. 遺留分の請求はいつ・どこで・どうやって行いますか?

遺留分侵害を知った日から1年以内に、侵害している相続人(受遺者)に対して意思表示をします。方法は「請求します」という旨の意思表示が相手に到達すれば足りますが、証拠を残すために内容証明郵便(配達証明付き)を利用することが強く推奨されます。特定の機関(裁判所や役場)への届出は不要ですが、当事者間で合意できない場合は家庭裁判所への調停申立てが次のステップとなります。

Q. 「遺留分を放棄する」ことはできますか?

はい、できます。ただし、相続開始前(被相続人が生存中)に遺留分を放棄する場合は、家庭裁判所の許可が必要です(民法1049条)。相続開始後であれば、当事者間の合意だけで放棄できます(家庭裁判所への申立て不要)。「遺留分の事前放棄」は、後継者への事業承継・財産集中を図りたい場合などに活用されることがあります。ただし、放棄した後に撤回することは原則できないため、十分に検討した上で行ってください。

Q. 遺留分侵害額請求に税金はかかりますか?

遺留分侵害額として受け取る金銭は相続税の課税対象となります。一方、支払う側(長男など)は支払った金額だけ取得財産が減るため、相続税の計算上は調整が行われます。また、相続税の申告期限(10ヶ月)後に遺留分の金額が確定した場合は「更正の請求」という手続きで税額を修正できます。遺留分請求が絡む相続税の申告は複雑なため、税理士に相談することを強くおすすめします。相続税の基礎控除なども合わせて確認しておきましょう。

Q. 相続放棄した場合、遺留分の請求はできますか?

相続放棄をした人は、最初から相続人でなかった者とみなされます(民法939条)。そのため、相続放棄をした相続人は遺留分を請求する権利を失います。「借金を相続放棄して、プラスの財産だけ遺留分請求する」ことはできません。相続放棄は3ヶ月以内という期限があり、一度行うと撤回できません。遺留分請求との選択は慎重に判断してください。

Q. 遺言書がなくても「不公平な遺産分割」が行われた場合に遺留分は使えますか?

遺留分侵害額請求は、遺言書・贈与による遺留分の侵害に対して行う制度です。遺言書がない場合の遺産分割協議で不公平な分割をされても、基本的には遺留分の問題ではなく「遺産分割協議の取り消し・やり直し」の問題になります。協議書に署名した後では取り消しが難しいため、「納得できない内容の協議書には署名しない」ことが重要です。不公平な内容への同意を強要された場合(強迫・詐欺等)は法的な取り消しを検討しましょう。

まとめ

遺言書の内容で遺留分が侵害されていても、「遺留分侵害額請求」によって金銭を受け取る権利があります。ただし、請求できる期限は遺留分侵害を知った日から1年(相続開始から10年)と定められており、時間を置くと権利が消えてしまいます。遺言書の内容に納得できない場合は、できるだけ早く専門家に相談することが最大の対策です。

  • 遺留分は配偶者・子・直系尊属に認められる最低限の相続権(兄弟姉妹はなし)
  • 割合は全体で1/2(直系尊属のみの場合は1/3)、各人の法定相続分をかけて算出
  • 2019年改正後は「金銭の支払い請求」に一本化(現物返還ではない)
  • 算定基礎には相続人への10年以内・第三者への1年以内の生前贈与も加算
  • 請求は内容証明郵便で意思表示→交渉→調停→訴訟の順で進む
  • 期限(1年)を過ぎると請求権が消滅——遺言書を見たらすぐに動く
  • 相続放棄した人は遺留分を請求できない

遺言書の種類公正証書遺言の作り方を事前に理解して、遺留分トラブルを防ぐ遺言書作りにも役立ててください。相続手続き全体の流れと合わせて、遺留分請求の手順を計画的に進めましょう。

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