相続後に確定申告が必要なケースと申告のやり方|準確定申告・譲渡所得・還付まで元銀行員AFPが解説

相続税

Tax Filing After Inheritance

相続後に確定申告が必要なケースと申告のやり方

準確定申告・相続不動産の譲渡所得・還付申告まで
元銀行員AFP田中由美がわかりやすく解説

亡くなった方の申告(準確定申告) 相続不動産売却の譲渡所得 還付金も要チェック

「相続の手続きがやっと終わった……でも確定申告も必要って聞いたけど、何をすればいいの?」——相続が発生した年は、通常の相続税申告に加えて、確定申告に関する手続きが別途必要になるケースがあります。特に、亡くなった方の代わりに行う「準確定申告」と、相続した不動産を売却した場合の「譲渡所得申告」は、多くの方が見落としがちです。申告を怠ると、後から追徴課税や加算税のペナルティを受けることもあります。この記事では、相続後に必要になる確定申告の種類・期限・手順を、元銀行員でAFP・相続診断士の田中由美が詳しく解説します。

この記事でわかること

  • 相続後に確定申告が必要になる3つのパターン
  • 準確定申告とは何か・誰が・いつまでに申告するか
  • 相続した不動産を売却した場合の譲渡所得申告の方法
  • 相続人が受け取った各種所得(家賃・配当等)の申告
  • 還付申告で取り戻せるお金がある場合の手続き
  • 確定申告を怠った場合のペナルティ

相続後に確定申告が必要になる3つのパターン

相続が起きた年に確定申告が必要になるのは、大きく分けて以下の3つのパターンです。それぞれ申告者・期限・内容が異なるため、混同しないように整理しておくことが大切です。

パターン①

準確定申告

亡くなった方が生前に得ていた所得について、相続人が代わりに行う確定申告です。死亡日から4か月以内に申告・納税が必要です。

申告者:相続人全員(連署)

パターン②

相続財産を売却した場合の申告

相続した不動産・株式・その他の財産を売却して利益(譲渡所得)が生じた場合、翌年の3月15日までに申告・納税が必要です。

申告者:売却した相続人本人

パターン③

相続後に相続人が得た所得の申告

相続した賃貸物件からの家賃収入・株式の配当収入・死亡保険金以外の収入など、相続後に相続人が取得した所得は、相続人自身の確定申告で申告します。

申告者:所得を得た相続人本人

相続税申告と確定申告は別物です

相続税の申告(死亡後10か月以内)と確定申告(所得税の申告)は、まったく別の申告です。相続税を申告・納税した場合でも、上記3つのパターンに当てはまれば、別途確定申告が必要になります。どちらも必要な方は、期限と内容を混同しないよう注意してください。相続税申告が必要かどうかの確認はこちらの記事で解説しています。

準確定申告とは——亡くなった方の代わりに行う所得税申告

準確定申告とは、亡くなった方(被相続人)が1月1日から死亡日までの間に得ていた所得について、相続人が代わりに申告・納税する手続きです。被相続人が確定申告をしていた方(自営業・フリーランス・給与所得者で年末調整以外の申告が必要だった方等)に必要です。

準確定申告が必要なケース

必ず必要なケース

  • 自営業・フリーランス・農業者など事業所得があった
  • 不動産を貸していて家賃収入(不動産所得)があった
  • 株式・投資信託を売却して利益があった(特定口座の源泉徴収なしの場合)
  • 公的年金が400万円超または年金以外の所得が20万円超あった
  • 2か所以上から給与をもらっていた
  • 副業収入が20万円超あった

申告すると還付になる可能性があるケース

  • 給与所得者が年の途中で亡くなった(年末調整未実施)
  • 医療費が多くかかっていた(医療費控除)
  • 住宅ローン控除を受けていた
  • 社会保険料・生命保険料の控除を受けていた
  • 寄付(ふるさと納税等)をしていた

準確定申告の期限・申告方法

項目 内容
申告期限 死亡日の翌日から4か月以内(例:7月10日死亡 → 11月10日まで)
申告者 相続人全員が連署して提出(相続人が1人の場合はその方が単独申告)
提出先 亡くなった方の住所地を管轄する税務署(相続人の住所地ではない)
申告書の書式 通常の確定申告書(第一表・第二表)の上部欄外に「準確定申告」と赤書き
所得の計算期間 1月1日〜死亡日まで(死亡した年の1月1日から死亡日までの所得を申告)
使える控除 基礎控除・配偶者控除・医療費控除・社会保険料控除・生命保険料控除など(条件あり)
還付金の行き先 還付がある場合は相続人の口座に入金(相続財産として扱われる)

準確定申告で使える控除の注意点

  • 医療費控除:死亡日までに支払った医療費が対象。死亡後に相続人が支払った医療費は被相続人の準確定申告では使えない(相続人自身の医療費控除に使える)
  • 配偶者控除・扶養控除:死亡日の現況で判定(12月31日時点ではなく死亡日時点)
  • 社会保険料控除:死亡日までに支払った国民健康保険・介護保険料が対象
  • 生命保険料控除・地震保険料控除:死亡日までに支払った分が対象
  • ふるさと納税(寄附金控除):死亡日までに支払った分が対象
相続した不動産の売却と確定申告のイメージ

相続した不動産を売却した場合の確定申告(譲渡所得申告)

相続した不動産(実家・土地・マンション等)を売却した場合、売却益(譲渡所得)が発生すれば確定申告が必要です。相続税の申告とは別に、売却した翌年の3月15日までに確定申告しなければなりません。

譲渡所得の計算方法

譲渡所得 = 譲渡収入金額 − 取得費 − 譲渡費用

譲渡収入金額

売却金額(実際に受け取った代金)

取得費

被相続人が購入した時の価格(相続した場合は被相続人の取得費を引き継ぐ)。不明な場合は譲渡収入金額の5%を使用

譲渡費用

仲介手数料・印紙税・解体費用など売却に直接かかった費用

※ 建物部分は減価償却費相当額を取得費から控除して計算します。土地は減価償却なし。

相続不動産の売却で使える特例・控除

特例・控除名 内容 主な条件
相続財産の取得費加算の特例 支払った相続税の一部を取得費に加算できる。その分だけ譲渡所得が減り、税額が下がる 相続税申告済み・相続開始日の翌日から3年10か月以内に売却
空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除 親の住んでいた空き家(昭和56年5月以前建築)を相続して一定の要件を満たして売却した場合、3,000万円控除できる 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却・耐震改修または取壊しが必要
マイホームの3,000万円特別控除 相続後に相続人が居住してから売却した場合に適用できる場合がある 売却前に実際に居住していること・他の特例との併用制限あり
長期譲渡所得の低税率 所有期間が5年超の場合、税率が低くなる(20.315%→15.315%+住民税5%等) 相続の場合は被相続人の取得日から期間を通算できる

相続不動産を売却した場合の税率(所有期間別)

所有期間 所得税率 住民税率 合計税率
5年以下(短期譲渡所得) 30% 9% 39%(+復興特別所得税)
5年超(長期譲渡所得) 15% 5% 20%(+復興特別所得税)

※ 相続した不動産の所有期間は、被相続人が取得した日から通算できます。例:被相続人が30年前に取得した不動産を相続した場合→相続直後に売却しても「長期」扱いになります。不動産の相続手続き全般はこちらの記事もご覧ください。

準確定申告の手続きを行う相続人のイメージ

田中由美の実体験:準確定申告で慌てた相続人たちのケース

相続の相談に乗っていると、「準確定申告の期限が4か月しかないと知らなかった」という方が非常に多いです。通常の確定申告は翌年3月15日までという印象が強いため、「来年の3月まで大丈夫」と思っているうちに期限を過ぎてしまうケースが後を絶ちません。

特に困るのが、被相続人が自営業だったケースです。収入・経費の計算が複雑な上、必要な書類(領収書・帳簿等)がどこにあるかもわからない状態で、4か月以内に専門家(税理士)を探して依頼し、申告を完了しなければなりません。早期に税理士に相談することが最も重要です。

一方で、準確定申告をすることで「還付金が発生した」という方も多くいらっしゃいます。年の途中で亡くなった給与所得者の方は年末調整が行われておらず、源泉徴収されすぎていた所得税が還付されることがあります。「申告しなければよかった」という方は一人もいません。期限を守って申告することが大切です。

相続後に相続人自身が行う確定申告

相続が起きた年・翌年以降、相続人自身が確定申告を行わなければならないケースも多くあります。相続によって新たな所得が発生するためです。

相続した賃貸不動産からの家賃収入

被相続人が所有していた賃貸物件を相続した場合、相続後の家賃収入は相続人の「不動産所得」になります。年間の家賃収入から必要経費(管理費・修繕費・減価償却費・固定資産税・借入金の利息等)を引いた金額が所得として課税されます。不動産所得がある方は毎年確定申告が必要です(損失が生じた場合でも申告が必要な場合があります)。

相続した株式・投資信託の配当・売却益

被相続人の証券口座から相続した株式の配当・売却益も、相続後の配当・売却は相続人自身の所得です。特定口座(源泉徴収あり)なら確定申告は不要ですが、特定口座(源泉徴収なし)や一般口座は確定申告が必要です。株式の相続については証券会社に相続手続きを行った上で、名義変更後の取引から申告義務が生じます。

死亡後に支払われる給与・退職金

被相続人の死亡後に支払われた未払給与・賞与は相続人が受け取ります。この場合、受け取った相続人の一時所得または雑所得として取り扱われることがあります。一方、死亡退職金は相続財産として扱われる場合(受取人が特定されていない場合)と、みなし相続財産として相続税の対象になる場合があります。いずれも受け取る際には税務上の取り扱いを確認してください。

相続した事業の継続による事業所得

被相続人が営んでいた事業(個人事業・農業等)を相続人が引き継いで継続する場合、相続後の事業所得は相続人自身の所得として申告が必要です。青色申告を引き継ぐ場合は、死亡日から一定期間内に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります(死亡日が1月1日〜8月31日の場合は死亡日から4か月以内、9月1日〜10月31日は申告期限まで等、期限が複雑なため税理士への相談を推奨します)。

還付申告——申告すれば税金が戻るケース

準確定申告において、亡くなった方に源泉徴収されすぎていた所得税がある場合、申告することで相続人に還付されます。「申告しなければよかった」ということはなく、積極的に申告することをお勧めします。

還付が生じやすいケース 理由 準備する書類の例
年の途中で退職・死亡した給与所得者 年末調整が行われないため、源泉徴収された所得税が多すぎる場合がある 源泉徴収票(勤務先から取得)
医療費が多額だった 医療費控除により課税所得が減り、既に納税した税額より税額が少なくなる 医療費の領収書・明細書(医療費控除の明細書)
生命保険料・社会保険料の控除未適用 年末調整で処理していなかった場合、準確定申告で控除できる 生命保険料控除証明書・国民健康保険の支払い記録
ふるさと納税・寄付金控除 死亡日までに行ったふるさと納税・寄付が控除できる 寄付金受領証明書
住宅ローン控除(残残期間あり) 死亡年まで住宅ローン控除を受けていた場合、年途中の死亡でも死亡日分まで控除可能 住宅借入金等残高証明書・登記事項証明書

還付金は相続財産になる

準確定申告により還付された所得税は、亡くなった方の財産として相続財産に含まれます。相続税の申告が必要な場合(課税価格の合計が基礎控除を超える場合)は、この還付金も財産として申告しなければなりません。申告が済んでから追加で還付金が入金された場合は修正申告(または更正の請求)が必要になる場合があります。

確定申告の具体的な手順と必要書類

準確定申告・譲渡所得申告それぞれで、用意すべき書類と申告の流れをまとめます。

準確定申告に必要な書類

共通書類

  • 亡くなった方の確定申告書(前年分があれば参考に)
  • 亡くなった方のマイナンバーカードまたは通知カード
  • 相続人全員の署名・押印(実印)
  • 相続人代表者の指定(「相続人代表者指定届出書」の提出)

所得の種類別書類

  • 給与所得:源泉徴収票(勤務先が発行)
  • 年金所得:公的年金等の源泉徴収票(日本年金機構等が発行)
  • 事業所得:収支内訳書・帳簿・領収書等
  • 不動産所得:家賃収入の記録・管理費等の領収書

控除に関する書類

  • 医療費控除:医療費の領収書・セルフメディケーション税制の領収書
  • 生命保険料控除:控除証明書
  • 社会保険料控除:支払い記録(国民健康保険・介護保険等)
  • 寄付金控除:寄付金受領証明書

譲渡所得申告に必要な書類

  • 不動産の売買契約書(売却時)
  • 不動産の取得費を示す書類(被相続人の購入時の売買契約書・領収書等)
  • 登記事項証明書(法務局で取得)
  • 仲介手数料等の領収書(譲渡費用)
  • 相続税申告書・相続税の納税証明書(取得費加算の特例を使う場合)
  • 空き家特例を使う場合:耐震証明書または取壊し後の更地であることの証明・市区町村の確認書等

確定申告を怠った場合のペナルティ

期限内に申告・納税しなかった場合、ペナルティが課されます。知らなかったでは済まないため、期限を必ず守ってください。

ペナルティの種類 内容・税率 発生条件
無申告加算税 本来の税額の15%(50万円超の部分は20%)。税務調査後は25%〜30% 期限内に申告しなかった場合
延滞税 期限翌日から2か月以内:年2.4%(2024年現在)。2か月超:年8.7% 期限内に納税しなかった場合(日割り計算)
過少申告加算税 追加税額の10%(税務調査を受けてから申告した場合は15%) 申告した税額が少なかった場合(修正申告・更正があった場合)
重加算税 追加税額の35%(無申告の場合40%) 意図的な隠ぺい・仮装があった場合(悪質と判断された場合)

「知らなかった」は通用しない

税務署は相続登記情報・売買情報・金融機関からのデータを照合することで、申告漏れを把握します。「相続した不動産を売ったことがわかるはずがない」と思っていても、税務署の把握能力は高く、数年後に「お尋ね」の通知が届くことがあります。早期に申告・納税することで加算税・延滞税を最小限に抑えられます。

株式・投資信託を相続した場合の確定申告

被相続人が証券口座を保有していた場合、名義変更後の株式・投資信託の取り扱いは複雑です。名義変更のタイミングや口座の種類によって申告義務が変わります。

相続した株式の名義変更と取得価額の引き継ぎ

相続した株式・投資信託は、被相続人の取得価額(購入時の金額)をそのまま引き継ぎます(取得費の引き継ぎ)。例えば、被相続人が100万円で購入した株を相続し、相続時の評価額が300万円だったとしても、取得費は100万円のままです。この株を400万円で売却した場合、譲渡所得は「400万円−100万円=300万円」になります(300万円が相続財産評価額でも、課税ベースになるのは取得費100万円です)。

被相続人の取得費が不明な場合

被相続人が何年も前に購入した株で、取得費の記録が見つからない場合は「概算取得費(売却金額の5%)」を使用することができます。ただし実際の取得費が判明している場合は、概算取得費より有利な方を選択できます。証券会社の取引履歴(10年分程度保存されている場合が多い)を確認してみてください。

口座の種類別・確定申告の要否

口座の種類 確定申告の要否 メモ
特定口座(源泉徴収あり) 原則不要 証券会社が自動的に税金を差し引くため申告不要。ただし他の所得と損益通算する場合は申告が必要
特定口座(源泉徴収なし) 原則必要 年間の譲渡損益を計算して自分で申告が必要
一般口座 必要(損益20万円超) 自分で取引記録をまとめて申告。年間損益が20万円以下の給与所得者は申告不要
NISA口座(成長投資枠・つみたて) 不要 NISA口座内の利益は非課税。ただし相続した場合、相続日時点での評価額が新たな取得費となり、以降の運用で利益が出た場合に口座の種類によって課税関係が変わる
iDeCo(個人型確定拠出年金) 死亡一時金として受け取る 加入者が亡くなった場合、遺族に「死亡一時金」として支給される。受け取った遺族の「一時所得」または「退職所得」として課税されることがある

損益通算と繰越控除の活用

特定口座(源泉徴収あり)であっても、他の口座で損失が発生している場合は確定申告することで損益を通算し、納めすぎた税金を取り戻せる場合があります。また、株式の売却損は確定申告することで翌年以降3年間繰り越すことができます(損失の繰越控除)。相続した株式を売却して損失が出た場合もこの制度を活用できます。

複数の証券会社の口座を相続した場合は、それぞれの会社から「年間取引報告書」を取り寄せ、一か所にまとめて損益を計算してから申告することをお勧めします。

事業を引き継いだ場合の申告手続き——青色申告の引き継ぎ

被相続人が個人事業(自営業・農業・フリーランス等)を営んでいた場合、相続人がその事業を引き継ぐケースがあります。この場合、申告上の注意点が複数あります。

1

開業届の提出(事業を引き継ぐ相続人)

相続人が個人事業を引き継いで継続する場合、相続人自身の名義で「個人事業の開業届出書」を税務署に提出します。提出期限は事業開始日(引き継いだ日)から1か月以内です。事業の形態(業種・屋号等)が変わらない場合でも、新しい屋号・事業者名で届け出が必要です。

2

青色申告承認申請書の提出(期限が複雑)

被相続人が青色申告者だった場合、相続人も青色申告を引き継ぐには「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。提出期限は死亡日の時期によって異なります。「1月1日〜8月31日死亡」の場合は死亡日から4か月以内、「9月1日〜10月31日死亡」は12月31日まで、「11月1日〜12月31日死亡」は翌年の2月15日まで、という複雑な期限設定があります。青色申告の特典(最大65万円の特別控除・損失の繰越等)を引き継ぐためには、必ずこの期限を守る必要があります。

3

帳簿の引き継ぎと棚卸資産・固定資産の整理

相続した事業に棚卸資産(商品・在庫等)や固定資産(機械・車両・事務所等)が含まれている場合、相続時の評価額(相続税評価額)が新たな帳簿価額の基礎になります。特に固定資産の減価償却費の計算は被相続人の帳簿を引き継ぐか、新たに相続税評価額から計算するかで異なる場合があり、税理士との確認が必要です。

4

消費税の届け出(課税事業者の場合)

被相続人が消費税の課税事業者だった場合、相続人が事業を引き継いだ年・翌年の消費税の申告義務についても確認が必要です。被相続人の前々年の課税売上高が1,000万円超だった場合は、引き継いだ年から相続人も消費税の課税事業者として申告義務が生じることがあります。必要に応じて「消費税課税事業者届出書」を提出してください。

事業を引き継がない場合でも手続きが必要

相続人が事業を引き継がない(廃業する)場合でも、被相続人が事業を行っていた期間の売上・経費の申告(準確定申告における事業所得の申告)は必要です。また、廃業に伴う棚卸資産の自家消費・譲渡・処分、固定資産の売却なども課税関係が生じることがあるため、廃業手続きと合わせて税理士に相談してください。廃業届(「個人事業の廃業届出書」)は死亡日から1か月以内に被相続人の住所地の税務署に提出します(相続人が提出)。

確定申告の手続き方法——e-Tax・税理士依頼・窓口相談

相続後の確定申告はどのように行えばいいか、主な3つの方法の特徴をまとめます。

方法①:税理士に依頼する(推奨)

相続後の確定申告(特に準確定申告・譲渡所得申告・事業の引き継ぎ)は複雑なため、相続専門の税理士への依頼が最も確実です。

メリット

  • 申告漏れ・ミスのリスクが最小化される
  • 節税特例(取得費加算・空き家特例等)の適用を確認してもらえる
  • 相続税申告とまとめて依頼できる場合が多い

デメリット

  • 費用がかかる(準確定申告は5〜20万円程度)
  • 早めに依頼しないと期限に間に合わない可能性がある

方法②:e-Tax(電子申告)で自己申告

国税庁の「確定申告書等作成コーナー」や「e-Tax」を使って自分でオンライン申告する方法です。

メリット

  • 費用がかからない
  • 24時間いつでも申告可能
  • 電子申告控除(65万円控除)が使える(青色申告の場合)

デメリット

  • 準確定申告には対応していない場合があり、書面申告が必要なこともある
  • 相続後の特殊な計算(取得費加算・空き家特例等)は複雑でミスが生じやすい

方法③:税務署・申告会場で相談

確定申告期間中(2月16日〜3月15日)は税務署や申告会場で、職員や申告相談コーナーのスタッフに相談しながら申告書を作成することができます。

メリット

  • 費用がかからない
  • 基本的な質問には答えてもらえる

デメリット

  • 確定申告期間中しか利用できない(準確定申告は4か月以内のため期間外の場合も)
  • 相続特有の複雑な申告は対応が難しい場合がある
  • 混雑しており、時間がかかる

相続直後にやるべきこと——チェックリスト

  • 被相続人の前年の確定申告書(控え)を探す
  • 被相続人の所得の種類(給与・年金・事業・不動産・株式等)を確認する
  • 準確定申告の要否を確認し、必要であれば税理士に早急に相談する
  • 被相続人の源泉徴収票・年金の源泉徴収票を勤務先・年金機構から取り寄せる
  • 医療費の領収書・生命保険料控除証明書などを整理する
  • 相続した不動産の売却を予定している場合、売却前に税理士に特例の適用可否を確認する
  • 被相続人が事業を行っていた場合、廃業届または開業届・青色申告承認申請書の期限を確認する

よくある質問(Q&A)

Q. 相続人が複数いる場合、準確定申告は誰が書けばいいですか?

A. 相続人全員が連署(全員の署名・押印)した申告書を提出します。ただし実務上は「相続人代表者」を決めて、その方が申告書を作成・提出するのが一般的です。税務署に提出する際に「相続人代表者指定届出書」を一緒に提出しておくと、税務署からの書類が代表者に届くようになります。他の相続人には「準確定申告についてのお知らせ」という書類を送付する義務がありますが、一方が申告した旨を他の相続人に通知する必要があります。複数の相続人が別々に申告することも可能ですが、手続きが複雑になるため、代表者がまとめて申告することをお勧めします。

Q. 準確定申告の期限(4か月)を過ぎてしまいました。どうすればいいですか?

A. 期限を過ぎていても、できるだけ早く申告してください。期限後申告(期限後に自主的に申告すること)であれば、無申告加算税は15%ですが、税務調査の通知を受けてから申告した場合はさらに高い25%になります。また、延滞税も日割りで増えていくため、一日でも早く申告・納税することが重要です。期限を過ぎた場合でも「ゼロ申告で済む」(申告したら税額ゼロや還付になる)場合は、加算税の計算ベースとなる税額がないため実質的なペナルティがないこともあります。いずれにせよ、早期に税務署または税理士に相談することをお勧めします。

Q. 相続した不動産をすぐ売ったら税金はどのくらいかかりますか?

A. 所有期間が5年超か以下かで税率が大きく変わります。相続した不動産は被相続人が取得した日から所有期間を通算するため、被相続人が長年保有していた不動産であれば相続直後に売却しても「長期譲渡所得(税率20.315%)」が適用されます。また「空き家特例(3,000万円特別控除)」や「相続財産の取得費加算の特例」を利用できれば、実質的な税負担を大幅に抑えられます。売却金額・取得費・特例の適用可否によって税額が大きく変わるため、売却前に必ず税理士に試算を依頼してください。相続専門税理士の選び方の記事も参考にしてください。

Q. 亡くなった方が確定申告をしていなかった場合でも準確定申告は必要ですか?

A. 亡くなった方の所得の状況によります。会社員で年末調整が完結していた方(副業なし・医療費控除等の申告が不要だった方)は、原則として準確定申告は不要です。一方、自営業・フリーランス・不動産収入がある方・公的年金が400万円超の方などは、生前に確定申告していたかどうかに関わらず、準確定申告が必要になります。申告が必要かどうか不明な場合は、亡くなった方の前年の確定申告書(控え)や源泉徴収票、通帳の入出金記録などを確認して、税理士または税務署の相談窓口で確認することをお勧めします。

Q. 相続税と準確定申告、どちらを優先して対応すべきですか?

A. 期限が短い順に優先してください。準確定申告の期限は「死亡日から4か月以内」であり、相続税申告の「死亡日から10か月以内」より短いです。まず準確定申告の要否を確認し、必要であれば優先的に対応します。なお、準確定申告で確定した還付金や納税額は、相続税申告の財産・債務の計算に影響することがあるため、両方の申告を担当できる相続専門の税理士に早期に依頼することで、効率的に対応できます。専門家の選び方相続手続きの全体の流れの記事も合わせてご覧ください。

この記事のまとめ

相続後の確定申告まとめ

  • 相続後の確定申告には「準確定申告(4か月以内)」「相続財産の売却による譲渡所得申告(翌年3月15日)」「相続人自身の所得申告」の3種類がある
  • 準確定申告は、亡くなった方の1月1日〜死亡日までの所得について、相続人全員が連署して亡くなった方の住所地の税務署に提出する
  • 給与所得者が年途中に亡くなった場合・医療費が多い場合は、準確定申告で還付金が発生することが多い
  • 相続した不動産を売却した場合の譲渡所得は、被相続人の取得日から所有期間を通算できる。5年超なら税率20.315%(長期)が適用される
  • 「空き家に係る3,000万円特別控除」「相続財産の取得費加算の特例」など、相続特有の節税特例がある。売却前に必ず確認する
  • 申告を怠ると、無申告加算税(15〜30%)・延滞税が発生する。「知らなかった」は免除されないため、早期の対応が必要
  • 準確定申告と相続税申告の両方が必要な場合は、相続専門の税理士に早期に依頼することで漏れなく・効率的に対応できる
  • 相続後に賃貸収入・株式配当等の所得を得た場合は、相続人自身の確定申告(毎年)が必要になる。申告義務が生じる所得の種類を把握しておく

相続後の税務手続きは複雑です。準確定申告・相続税・譲渡所得申告を自力で行うことが難しい場合は、相続専門の税理士に依頼することを強くお勧めします。相続専門税理士の選び方・費用の目安の記事も参考にしてください。相続手続き全体の流れはこちらの記事をご確認ください。期限を守って正確に申告し、不必要なペナルティを避けましょう。

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