生前対策・認知症対策 | 成年後見・家族信託
成年後見制度と家族信託の違い
どちらを選ぶべき?
法定後見・任意後見・家族信託の違い・費用・選び方を元銀行員AFPが徹底比較。認知症前後の選択肢を分かりやすく解説。
「親が認知症になりかけている。成年後見を申し立てるべき?それとも家族信託?」「任意後見と法定後見の違いが分からない」「費用はどちらが安いの?」——認知症対策として「成年後見制度」と「家族信託」はよく比較されますが、それぞれの仕組み・メリット・デメリットは大きく異なります。制度を誤って選んでしまった場合、10〜20年間で数百万円単位の損失につながることもあります。元銀行員AFP田中由美が、制度の違い・選び方の判断基準・組み合わせ方まで、実例を交えて分かりやすく解説します。
著者:田中由美より
銀行員時代から相続診断士になった今まで、「成年後見か家族信託か」という相談を何百件も受けてきました。一番多く聞く後悔は「法定後見を選んでしまい、毎月弁護士に4万円以上払い続けている。不動産も売れない。もっと早く家族信託を知っていれば」というものです。一方で「判断能力がなくなってからの相談で家族信託が使えなかった」という悲しいケースも多い。「どちらを選ぶか」は財産規模・家族構成・親の現在の判断能力によって大きく変わります。特に不動産を所有している場合、制度の選択が将来の数百万円の差になることも珍しくありません。この記事でそれぞれの特徴を正しく理解して、後悔のない選択をしてください。
成年後見制度の全体像:法定後見と任意後見の2種類
「成年後見制度」と一口に言っても、大きく2種類あります。認知症になる前か後かで選べる制度が違います。また同じ「成年後見」でも、法定後見と任意後見では仕組み・費用・自由度が大きく異なります。まず全体像を把握してから、どの制度が自分のケースに合うかを考えましょう。
法定後見制度(ほうていこうけん)
認知症になった後に利用
判断能力が低下した後、家庭裁判所に申立てを行い、後見人を選任してもらう制度。本人の意思とは関係なく後見人(通常は弁護士・司法書士)が財産管理・身上監護を行う。一度始めると原則として本人が亡くなるまで続く。
主な特徴:
- 判断能力喪失後でも申立て可能
- 後見人は家庭裁判所が選ぶ(家族がなれないことも多い)
- 後見人への報酬が毎月発生(終身)
- 財産の積極的活用は難しい
任意後見制度(にんいこうけん)
元気なうちに契約→認知症後に発動
本人が判断能力があるうちに「将来認知症になったらこの人に後見をお願いする」という契約を締結しておく制度。認知症後に家庭裁判所で任意後見監督人が選任されて発動する。後見人を自分で選べる点が法定後見との最大の違い。
主な特徴:
- 元気なうちに後見人を自分で選べる
- 信頼できる家族・知人を後見人に指定可
- 監督人への報酬が毎月発生(発動後)
- 財産管理の自由度は法定後見より高い
成年後見制度の3段階(補助・保佐・後見)
法定後見には、判断能力の程度に応じて3段階があります。
| 種類 | 対象者 | 後見人等の権限 |
|---|---|---|
| 補助(ほじょ) | 判断能力が少し不十分な方 | 特定の行為について補助人が同意・取消 |
| 保佐(ほさ) | 判断能力が著しく不十分な方 | 重要な法律行為について保佐人が同意・取消 |
| 後見(こうけん) | 判断能力がほぼない方(重度認知症等) | ほぼすべての法律行為を後見人が代理 |
家族信託とは:成年後見と何が違うのか
家族信託は「成年後見制度の代替手段」として近年急速に普及しています。2007年の信託法改正以降、一般の方でも利用しやすくなり、特に不動産を所有する高齢者の認知症対策として広く活用されています。成年後見との本質的な違いを理解することで、どちらが自分のケースに適しているかが分かります。
家族信託の基本:財産管理の権限を家族に移す仕組み
家族信託は、元気なうちに財産の管理権を信頼できる家族(受託者)に移しておく仕組みです。認知症になった後でも、受託者(子供等)が信託契約の範囲内で不動産の売却・賃貸管理・修繕工事の発注などを自由に行えます。裁判所の関与がなく、後見人報酬も基本的に発生しません。
成年後見制度との最大の違い:
- 家庭裁判所の関与がなく、家族だけで財産管理ができる
- 不動産の売却・建替えを裁判所の許可なく実行できる
- 設定後の維持費用(後見人報酬)がほぼゼロ
- 「認知症になる前」に設定する必要がある(後では不可)
- 財産管理のみ(身上監護は別途任意後見が必要)
家族信託と成年後見制度は「どちらが優れている」というわけではありません。タイミング(認知症前か後か)・財産の種類・家族構成によって最適な選択が変わります。例えば「すでに認知症になってしまった」場合は法定後見しか選択肢がなく、「不動産を多く持つ元気な親がいる」場合は家族信託が最優先候補になります。次のセクションで詳細な比較を行い、具体的な判断材料を提供します。
成年後見制度と家族信託の徹底比較:12項目でチェック
成年後見制度(法定後見・任意後見)と家族信託を12の項目で比較します。この表を参考に、自分のケースに合った制度を選びましょう。
| 比較項目 | 法定後見 | 任意後見 | 家族信託 |
|---|---|---|---|
| 利用できるタイミング | 認知症後も可 | 元気なうちに契約必須 | 元気なうちに設定必須 |
| 財産管理者 | 家庭裁判所が選任(弁護士・司法書士が多い) | 本人が選んだ人(監督人が監視) | 信頼できる家族(受託者) |
| 裁判所の関与 | 常に監督(定期報告義務) | 発動後に監督人が関与 | 不要 |
| 不動産の売却 | 家庭裁判所の許可が必要 | 監督人の同意が必要な場合あり | 信託契約の範囲内で自由に実行可 |
| 財産活用の自由度 | 低い(保守的管理のみ) | 中程度 | 高い(信託目的の範囲内) |
| 継続的な費用 | 後見人報酬:月2〜6万円(終身) | 監督人報酬:月1〜3万円(発動後) | ほぼゼロ |
| 初期費用 | 申立費用:数万円 | 契約費用:5〜10万円 | 設定費用:50〜150万円 |
| 身上監護 | 後見人が代理で実施可 | 後見人が代理で実施可 | できない(財産管理のみ) |
| 制度の終了 | 本人死亡まで(原則終了不可) | 本人死亡まで(原則終了不可) | 当事者の合意等で解除可能 |
| 相続対策の組み込み | 後見人の職務外(不可) | 限定的 | 信託設計次第で相続対策も組み込み可 |
| 受益者連続型(二次相続対策) | 不可 | 不可 | 可能(父→母→子等の連続設計) |
| 設定の専門家 | 司法書士・弁護士 | 司法書士・弁護士 | 家族信託専門の司法書士・弁護士 |

任意後見制度とは何か:本人が元気なうちに契約する後見の仕組み
任意後見制度は「成年後見制度」の中でも特に理解しておきたい制度です。元気なうちに後見人を自分で選べる点で法定後見と大きく異なります。家族信託と組み合わせて使う場合も多いため、仕組みをしっかり理解しましょう。
任意後見制度の流れ
任意後見契約の締結(元気なうちに)
本人(委任者)と後見人候補(受任者)が公証役場で任意後見契約を締結する。契約内容には「どの範囲の財産管理・身上監護を任せるか」を明記する。公正証書での締結が法律で義務付けられている。費用は2〜3万円程度。
契約締結後は「待機中」
任意後見契約を締結しただけでは発動しない。本人の判断能力が十分にある間は、本人が自分で財産管理・生活行為を行う。この期間に「財産管理委任契約」を別途結ぶことで、元気なうちから日常的な財産管理を任意後見人に依頼することも可能。
判断能力低下→家庭裁判所に申立て
本人の判断能力が低下してきたら、受任者(後見人候補)等が家庭裁判所に「任意後見監督人の選任」を申立てる。医師の診断書が必要。家庭裁判所が任意後見監督人(弁護士・司法書士等)を選任する。監督人への報酬が発生し始める(月1〜3万円程度)。
任意後見の開始・財産管理・身上監護
任意後見人(本人が選んだ人)が財産管理・身上監護を開始する。監督人の監視下で後見事務を行い、定期的に報告する義務がある。法定後見より財産活用の自由度は高いが、監督人の同意が必要な場面もある。
任意後見のメリット・デメリット
メリット
- 後見人を自分で選べる(家族・知人も可)
- 身上監護(医療・介護手続き)も任せられる
- 法定後見より財産活用の自由度が高い
- 認知症診断後でも本人の意思が反映しやすい
デメリット・注意点
- 発動後は監督人への報酬が毎月発生(終身)
- 発動には家庭裁判所への申立てが必要
- 不動産の積極的活用は限定的
- 財産管理委任契約も別途検討が必要
法定後見申立ての流れと注意点
親がすでに認知症になってしまった場合、法定後見申立てを検討することになります。申立ての流れと実務上の注意点を確認しましょう。
法定後見申立ての流れ
必要書類の収集(2〜4週間)
申立書・戸籍謄本・住民票・財産目録・医師の診断書(精神科・神経科)等を用意する。診断書の取得に時間がかかることがある。
家庭裁判所への申立て
本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てる。申立費用は数千円〜数万円程度(収入印紙・郵便切手・予納金等)。申立人は配偶者・4親等内の親族等。
調査・審判(1〜3か月)
家庭裁判所の調査官が本人・申立人・後見人候補者への面接調査を実施。専門家(精神科医等)による精神鑑定が実施される場合あり(追加費用5〜10万円)。
後見人の選任・開始
家庭裁判所が後見人を選任する。申立時に後見人候補者(家族等)を指定できるが、財産規模が大きい場合や専門家が適切と判断された場合は弁護士・司法書士等の専門家が選任される。以後、月2〜6万円の後見人報酬が発生し続ける。
法定後見の重要な注意点
- 一度後見が始まると、本人が回復しない限り終了しない(終身継続が原則)
- 財産規模が大きいと、家族より専門家後見人が選任されやすい
- 後見人は「財産を守る」のが役割であり、積極的な不動産活用は難しい
- 生前贈与・相続税対策は後見人の職務外であり、原則として実施不可
- 毎年、家庭裁判所への財産状況の報告義務がある
- 不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要(特に居住用不動産は厳しい)

田中由美が経験した成年後見・家族信託の選択事例
実際の相談現場から、成年後見制度と家族信託の選択が明暗を分けた2つの事例を紹介します。
【Aさんのケース】家族信託+任意後見で万全の備え
Aさん(68歳)は収益マンション1棟(評価額1.2億円)を所有。AFP資格を持つ知人の勧めで家族信託を設定しました。長男(40歳)を受託者とし、同時に任意後見契約も締結。72歳で軽度認知症と診断されましたが、長男がマンション管理・賃料収入の管理を継続。74歳に老人ホームへの入居が必要になった際は、任意後見が発動し長男が入所契約の手続きを代行。「財産管理は家族信託、身上監護は任意後見」という役割分担で、専門家後見人なしに万全の体制が整っていました。監督人報酬は月1.5万円で済んでいます。
→ 家族信託+任意後見の組み合わせが理想的に機能した事例。早期設定と役割分担の設計が成功のカギ。
【Bさんのケース】認知症後に法定後見→毎月5万円の報酬が発生
Bさんの母(78歳)はアパート2棟(評価額8,000万円)を所有。認知症と診断された後にBさんが相談に来ましたが、「家族信託は判断能力がないと設定できない」と伝えると「では成年後見しかない」と法定後見申立てを行いました。財産規模が大きかったため弁護士が後見人に選任され、月5万円の報酬が発生。Bさんが「アパートを売却して老人ホームの費用に充てたい」と後見人に相談しましたが「家庭裁判所の許可が必要で時間がかかる」と言われ、結局買い手のタイミングを逃しました。母が90歳まで生きた場合、後見人報酬だけで600万円を超える計算です。
→ 認知症後に気づいた場合の典型的なケース。「もっと早く知っていれば」という後悔を防ぐために、今この記事を読んでいる方はすぐに行動を起こしてほしい。
成年後見と家族信託:どちらを選ぶべきか判断フロー
「成年後見か家族信託か」の選択は、現在の状況によって決まります。以下の判断フローで確認しましょう。
状況別:最適な制度の選び方
状況①:親がまだ元気で判断能力がある場合
→ 第一選択:家族信託+任意後見の組み合わせ
不動産を所有している場合は家族信託を最優先で検討。財産管理は家族信託、身上監護(医療・介護)は任意後見という役割分担が最強の備えとなります。同時に遺言書も作成しましょう。
状況②:親が軽度認知症・判断能力に不安がある場合
→ 急いで家族信託・任意後見を検討。専門家に相談を
軽度認知症の段階では、まだ家族信託・任意後見が利用できる場合があります。ただし医師の診断・本人の意思確認が必要。専門家に今すぐ相談し、設定可能かどうか判断してもらいましょう。時間的な余裕はありません。
状況③:親がすでに重度の認知症・判断能力なし
→ 法定後見(成年後見)申立てしか選択肢がない
この段階では家族信託・任意後見は設定できません。法定後見申立てを行いましょう。後見人報酬が毎月発生しますが、適切な財産管理・身上監護を実現するためには必要です。不動産の売却など緊急性が高い場合は、早急に申立てを行うことが重要。
状況④:不動産はなく、金融資産だけの場合
→ 任意後見のみ・または代理権付きの財産管理委任契約で対応可能
不動産がない場合、家族信託の設定費用(50〜150万円)対効果が低い場合があります。任意後見契約のみ、または財産管理委任契約(認知症前から効力が発生する)で対応することも検討しましょう。専門家に費用対効果を相談してください。
費用の徹底比較:10年・20年で見た長期コスト
制度選択に大きく影響するのが費用です。初期費用だけでなく、長期的なコストで比較することが重要です。
| 費用の種類 | 法定後見 | 任意後見 | 家族信託 |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 申立費用:3〜15万円 (精神鑑定あれば+5〜10万円) |
契約費用:5〜10万円 (公正証書費用含む) |
設定費用:50〜150万円 (専門家報酬・登記費用等) |
| 毎月の費用 | 後見人報酬:月2〜6万円 (財産規模による・終身) |
監督人報酬:月1〜3万円 (発動後・終身) |
ほぼゼロ (信託計算書作成は年数万円) |
| 10年間の合計 | 約300〜740万円 | 約130〜380万円 | 約50〜150万円 |
| 20年間の合計 | 約580〜1,460万円 | 約250〜740万円 | 約50〜150万円(初期費用のみ) |
田中由美のコメント:費用で見た場合の結論
家族信託の初期費用50〜150万円は高く見えますが、法定後見を10年続ければ最低でも300万円以上かかります。長期的に見ると、不動産を所有している方にとっては家族信託のほうが圧倒的に費用対効果が高いケースが多いです。ただし、不動産がなく金融資産だけの場合は、任意後見のみで対応したほうがコスト効率が良い場合もあります。財産規模・状況に応じて専門家に相談することをお勧めします。
家族信託と任意後見を組み合わせた理想の設計
家族信託と任意後見は補完関係にあります。2つを組み合わせることで、認知症後の「財産管理」と「身上監護」の両方をカバーできます。
家族信託+任意後見:役割分担の設計
| 場面 | 担当する制度 | 具体的な内容 |
|---|---|---|
| 不動産の管理・売却 | 家族信託 | 受託者(子)が認知症後も売却・建替え・賃貸管理を継続 |
| 現金・預貯金の管理 | 家族信託 | 信託口口座で管理し、受益者(親)の生活費として支出 |
| 介護施設への入所手続き | 任意後見 | 任意後見人が入所契約・サービス利用契約を代理締結 |
| 医療同意・手術の同意 | 任意後見 | 任意後見人が医療機関との手続きを代理(ただし手術同意は家族として行う) |
| 介護認定申請 | 任意後見 | 市区町村への介護認定申請を任意後見人が代理 |
| 死亡後の財産分配 | 遺言書+信託終了 | 信託財産は帰属権利者へ、信託外財産は遺言書の内容に従う |
家族信託+任意後見+遺言書の3点セットを65〜75歳の元気なうちに整えておくことで、「認知症になっても」「亡くなっても」「家族が困らない」状態を実現できます。特に不動産を所有している方は、家族信託を優先して設定することをお勧めします。3点セットの費用は初期費用60〜170万円程度(家族信託50〜150万円+任意後見契約費用5〜10万円+遺言書5〜10万円)で、法定後見を10年利用する場合の費用と比べると大幅に安く抑えられます。
成年後見申立てで後悔しないための3つの準備
法定後見申立てを行う前に、後悔しないために確認しておきたい3つの準備があります。「後見申立てするしかない」と思い込んでいるケースでも、専門家に相談することで別の選択肢が見つかる場合があります。特に不動産を所有している場合は、申立て前に専門家と十分に相談することが重要です。
準備①:家族信託・任意後見の可能性を最終確認
「もう認知症だから家族信託は無理」と思い込んでいるケースが多いですが、軽度認知症の段階では意思能力があれば設定できる場合もあります。法定後見申立て前に、家族信託・任意後見の専門家に「うちの親は設定できるか」を確認してから申立てを検討することをお勧めします。一度法定後見が開始すると後戻りはほぼ不可能です。
→ 法定後見申立ての前に必ず専門家に確認
準備②:後見人候補者を明確にしておく
法定後見の申立書には「後見人候補者」を記載する欄がありますが、最終的に誰を後見人にするかは家庭裁判所が決定します。財産規模が大きい場合(目安として1,200万円以上)は専門家後見人が選ばれやすい傾向があります。候補者として家族を記載する場合は、親族間の対立がないこと・候補者の信頼性を説明できる書類を用意することが重要です。
→ 後見人候補者の記載と説明資料を準備する
準備③:不動産の売却計画を事前に立てる
法定後見開始後に「この不動産を売りたい」と思っても、家庭裁判所の許可が必要です。特に「居住用不動産(自宅)」の売却は許可が下りにくく、手続きに数か月かかることもあります。売却の可能性がある不動産は、申立て前に売却の必要性・売却理由・売却代金の使途を整理しておくと、後見開始後の手続きがスムーズになります。
→ 売却計画を文書化して後見人に引き継ぐ
成年後見制度の近年の動向と改正の可能性
成年後見制度は、2000年に施行されてから20年以上が経過し、「費用が高すぎる」「家族が後見人になれない」「財産を積極活用できない」などの課題が多く指摘されています。政府も制度の見直しを検討していますが、大きな改正はまだ実現していません。近年の動向を把握しておきましょう。
成年後見制度の主な問題点と改正議論
問題①:後見人報酬の永続的な負担
専門家後見人の報酬は毎月2〜6万円かかり、本人が生きている限り続きます。厚生労働省も「後見制度の費用負担が過大」として検討を行っており、低額・定額化の議論が進んでいます。ただし2026年4月時点では制度改正は実現していません。
問題②:「必要な時だけ」使えない仕組み
成年後見制度は「不動産の売却の時だけ使いたい」という一時的な利用ができません。一度開始すると終身継続が原則です。「特定の法律行為のみ後見人に代理させる」という柔軟な利用ができるよう制度改正の議論がありますが、現時点では認められていません。
問題③:家族が後見人になれないケースが多い
「親の後見人になれると思っていたが、財産規模が大きく弁護士が選ばれた」というケースが非常に多いです。最高裁判所の2022年統計では、成年後見の約78%が専門家後見人でした。親族が後見人になれても、監督人の選任・裁判所への報告義務は変わりません。
動向:家族信託・任意後見の普及が加速
成年後見制度の課題を背景に、家族信託の活用が年々増加しています。日本司法書士会連合会の調査では家族信託の相談件数は2015年比で5倍以上に増加しているとされます。特に不動産を所有する高齢者の間での認知度が急速に高まっており、「まずは家族信託を検討し、設定できない場合は任意後見・法定後見を検討する」という流れが主流になりつつあります。法定後見の代替・補完として、家族信託+任意後見の組み合わせが定着しつつあります。
よくある質問(Q&A)
この記事のまとめ
成年後見制度・家族信託の選び方まとめ
- 成年後見制度は「法定後見(認知症後でも可)」と「任意後見(認知症前に契約)」の2種類がある
- 法定後見は専門家後見人が全体の約78%を占め、毎月報酬が終身発生・財産活用が制限される
- 任意後見は元気なうちに後見人を自分で選べるが、発動後は監督人報酬(月1〜3万円)が発生する
- 家族信託は裁判所関与なし・設定後コストほぼゼロ・不動産を自由に管理・活用できる
- 家族信託のデメリットは「元気なうちしか設定できない」「身上監護はできない」「初期費用50〜150万円」
- 最強の組み合わせは「家族信託(財産管理)+任意後見(身上監護)+遺言書(死後の相続)」の3点セット
- 10年間のトータルコスト:法定後見300〜740万円 vs 任意後見130〜380万円 vs 家族信託50〜150万円(初期のみ)
- 軽度認知症の段階でも意思能力があれば家族信託・任意後見の設定が可能なので諦めずに相談を
- 親がまだ元気なら今すぐ専門家に相談を。認知症が少しでも進行すると選択肢が一気に狭まる
「どちらを選ぶべきか」は、親の現在の状態・財産規模・家族構成によって異なります。「うちの場合はどうすればいい?」と思ったら、家族信託・任意後見に精通した司法書士・弁護士に相談することをお勧めします。初回相談は多くの事務所で無料です。今こそが最も重要なタイミングです。「うちは大丈夫」「まだ早い」と思っているうちに認知症が進行してしまい選択肢が失われた方を何人も見てきました。この記事を読んだ今日こそ、行動を起こす最良のタイミングです。

