親が高齢・認知症気味…子が代わりに相続準備を進める方法|家族信託・任意後見・生前贈与の活用法を元銀行員AFPが解説

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Elderly Parent Inheritance Preparation

親が高齢・認知症気味…子が代わりに相続準備を進める方法

家族信託・任意後見・生前贈与の活用法を
元銀行員AFP田中由美がわかりやすく解説

認知症前にできる準備が鍵 家族信託・任意後見を活用 子が主導できる準備も多い

「親が高齢になってきて、最近物忘れも増えてきた。そろそろ相続の話をしたいのに、どう切り出せばいいかわからない」——50代前後の方から最もよく聞く悩みです。親が認知症になってしまうと、遺言書の作成・家族信託・生前贈与など多くの相続準備ができなくなります。それでも「縁起でもない」と話しづらく、時間だけが過ぎていく——そんな状態に心当たりがある方は少なくないはずです。この記事では、親の判断能力があるうちに子が主導して進められる5つの準備から、話を切り出すベストなタイミング、万が一準備が間に合わなかった場合の法定後見の活用まで、元銀行員でAFP・相続診断士の田中由美が丁寧に解説します。

この記事でわかること

  • 親が高齢化したとき子がやるべき準備の全体像(5つの柱)
  • 認知症になる前にできること・なってからできなくなることの具体的な違い
  • 家族信託・任意後見契約の仕組みと、それぞれのメリット・費用
  • 暦年贈与・相続時精算課税など生前贈与の早期活用法
  • 親に遺言書を書いてもらうときのサポート方法
  • 財産目録・デジタル遺産の整理方法
  • 相続の話を親に切り出すベストなタイミングと話し方
  • 「縁起でもない」と言われた時のやわらかい対応
  • 準備が間に合わなかった場合の法定後見の使い方

著者:田中由美(AFP・相続診断士・元銀行員)

私の母は2018年、76歳のときに「軽度認知障害(MCI)」と診断されました。それまで銀行で相続相談を何千件と受けてきた私でも、自分の親のことになると話を切り出すのが驚くほど難しく、1年近く「そのうち話そう」と先送りにしていたのです。診断から半年後、かかりつけ医に「まだ契約の判断能力はある」と確認してもらい、父・兄・私の三人で話し合い、実家の不動産を対象とする家族信託を司法書士と一緒に設定しました。設計費用は80万円ほどかかりましたが、その後母の症状が進行した時期にも実家の管理・修繕を滞りなく続けられ、本当に助かりました。もし設定が半年遅れていたら、契約自体ができなかった可能性があります。

この経験から痛感したのは、「親の判断能力があるうちに動くしかない」ということです。認知症は進行性の病気で、一度判断能力を失うと家族信託も任意後見契約も結べなくなります。「まだ元気だから」と先送りにする時間こそが、最大のリスク——元銀行員として何百件と見てきた現場感覚と、娘として身をもって体験した事実が一致した瞬間でした。この記事では、当時の私が事前に知っておきたかった情報を、できるだけ具体的にお伝えします。

親が高齢になったら子がやるべき準備5つ——全体像

結論として、親が高齢になってきた段階で子が主導して進めるべき準備は大きく5つあります。どれも「親の判断能力があるうちに」が大前提で、認知症が進んでからでは選択肢が大きく狭まります。まず全体像をつかみ、優先順位の高いものから取りかかるのが賢明です。

なぜこの5つが重要かというと、それぞれが「認知症リスクへの対策」「相続税対策」「相続人間トラブル予防」という3つの目的を異なる角度から補完するからです。1つだけでは不十分で、組み合わせて初めて効果を発揮します。

準備① 家族信託の活用

認知症になっても実家や預貯金の管理を続けられる仕組み。子を受託者にして親の資産を管理できる。設計費用は30〜100万円程度だが、認知症後の資産凍結を避けられる最強の対策。

準備② 任意後見契約

親が認知症になった時点で子が後見人として法的に身上監護・財産管理を行う契約。公正証書で締結する必要があるが費用は10〜15万円と家族信託より安い。信託と組み合わせるのが理想。

準備③ 生前贈与の早期活用

暦年贈与の110万円枠、住宅取得資金の贈与、教育資金の一括贈与など。認知症前に計画的に始めると相続税を効果的に圧縮できる。早いほど効果が大きい。

準備④ 遺言書の作成サポート

公正証書遺言を親に書いてもらう。子自身が書くのではなく、親の意思を尊重しながら専門家に同席してもらい作成をサポートする。兄弟間トラブルを防ぐ最も確実な方法。

準備⑤ 財産目録・デジタル遺産整理

親の預金口座・不動産・保険・証券・ネット口座などを一覧化する。認知症後は情報収集が困難になる。エンディングノートを活用して子が代わりに整理する形でも問題ない。

重要なのは、これら5つを「同時進行で進めない」ことです。いきなり全部持ち出すと親が圧倒されてしまい、かえって話が進みません。まずは「財産目録の整理」から始め、親の負担が少ないところから着手するのが成功パターンです。

親が元気なうちにやるべき相続準備の記事で、元気な段階での準備全般を解説しています。こちらも合わせて参考にしてください。

認知症になる前にできること・なってからできなくなること

相続準備の多くは「意思能力があること」が大前提です。認知症が進行して判断能力を失うと、契約行為そのものができなくなるため、準備できる選択肢は一気に狭まります。「認知症前」と「認知症後」で何が変わるのか、具体的に見ていきましょう。

たとえば家族信託は契約行為なので、契約時点で意思能力が必要です。軽度の物忘れ程度なら問題ないことが多いですが、認知症の中等度以降は難しくなります。司法書士や医師に判断能力を確認してもらう必要があるのです。

準備内容 認知症前 認知症進行後 代替策
家族信託の契約 ○可能 ×不可 法定後見(財産管理のみ)
任意後見契約の締結 ○可能 ×不可 法定後見(裁判所選任)
遺言書の作成 ○可能 △原則不可 代替手段なし
生前贈与 ○可能 ×不可 後見人も原則贈与不可
預金の引き出し・不動産売却 ○可能 ×凍結 法定後見で解除可能
保険契約の変更・解約 ○可能 ×不可 指定代理人制度を事前設定
財産目録の作成サポート ○可能 △制限あり 家族が把握している分のみ

⚠️ 認知症後の「資産凍結」は想像以上に深刻

親が認知症と診断され判断能力がないと認められると、銀行口座・証券口座・不動産はすべて「本人しか動かせない」状態になります。子でも家族でも動かせず、施設入所費用や医療費の支払いに困るケースが多発しています。法定後見を申し立てれば凍結は解除できますが、手続きに2〜4ヶ月かかり、家庭裁判所が選任する第三者(弁護士・司法書士)が後見人になることも多く、毎月2〜6万円程度の報酬が親の財産から支払われます(終身)。これを避けるためにも、「認知症前の家族信託・任意後見」は非常に重要です。

まとめると、認知症後は「守りの選択肢(法定後見)」しか残らないということです。積極的な相続対策は認知症前しかできないので、「親が元気なうちに動き始めること」が最大のポイントです。相続トラブルTOP5でも、認知症による資産凍結は上位のトラブルとして取り上げています。

家族信託を専門家と相談する

準備①:家族信託の活用——仕組みと費用

家族信託は、親が元気なうちに不動産や預貯金の管理権限を子に託す契約です。認知症になって判断能力を失っても、子が「受託者」として実家の管理・売却・修繕などを継続的に行えます。親が高齢化している家庭にとって最強の対策と言われている理由は、この「認知症後の資産凍結を完全に回避できる」点にあります。

なぜ有効かというと、信託財産は法律上「受託者(子)の名義」に移るため、親の判断能力が失われても取引が止まらないからです。ただし所有権が完全に移るわけではなく、「管理権だけ」が移る仕組みになっています。所有の実質的な利益(受益権)は親のまま残ります。

家族信託の基本的な仕組み

委託者(親)

信託財産(実家・預貯金等)を拠出する人。親本人。

受託者(子)

信託財産を管理・運用する人。通常は信頼できる子。

受益者(親)

信託財産から利益を受け取る人。最初は親本人、親死亡後は子に承継されるのが一般的。

委託者と受益者が同じ(親)の場合、贈与税は発生しません。これを「自益信託」といい、家族信託の一般的な形です。

家族信託の費用目安

費用項目 金額目安 備考
専門家コンサル料 信託財産の1%程度(30〜100万円) 司法書士・弁護士への設計費用
公正証書作成費用 3〜10万円 公証役場で信託契約書を公正証書化
登記費用(不動産) 固定資産税評価額の0.4% 信託登記の登録免許税
司法書士報酬(登記) 5〜15万円 信託登記申請代行
合計目安 40〜130万円程度 財産規模・物件数により変動

費用は決して安くありませんが、認知症後に法定後見を使うと毎月2〜6万円の報酬が終身発生するため、長期的には家族信託の方が安くなるケースが多いです。初期費用と長期コストを天秤にかけて判断するのがポイントになります。

家族信託の詳しい仕組みは家族信託とは?の記事で詳しく解説しています。

準備②:任意後見契約の活用——法定後見との違い

任意後見契約は、親が元気なうちに「認知症になったらこの人に後見人になってもらう」と自分で指名しておく契約です。家族信託が「財産管理」の仕組みなのに対し、任意後見は「身上監護(介護契約・施設入所・医療同意など)」まで広くカバーします。2つを組み合わせて使うのが理想的です。

なぜ重要かというと、認知症になってから後見人が決まる「法定後見」では、裁判所が選んだ見知らぬ専門家が後見人になることも多く、家族の意向が反映されにくいからです。任意後見なら信頼できる子を事前に指名できます。

任意後見と法定後見の比較

項目 任意後見(事前契約) 法定後見(事後申立)
契約できるタイミング 判断能力があるうち 判断能力を失った後
後見人の選任 本人が指名可能 家庭裁判所が選任(第三者多い)
初期費用 10〜15万円(公正証書作成費用) 10〜30万円(申立費用・医師鑑定料等)
月額報酬 家族後見人なら0円、第三者なら月2〜3万円 月2〜6万円(裁判所が決定)
監督人 任意後見監督人(必須)月1〜3万円 原則不要(必要なら選任)
財産管理の柔軟性 契約内容次第で柔軟 裁判所の許可が多く柔軟性低い
生前贈与・投資 契約次第で一部可能 原則不可(本人保護が最優先)

家族信託+任意後見のセット契約がおすすめ

家族信託は「信託財産に入れた資産」のみが対象で、信託外の資産や身上監護(介護契約・医療同意)には使えません。そのため、家族信託で主要財産をカバーしつつ、任意後見で介護・医療・信託外の細かい財産をカバーする「セット契約」が理想的です。費用は両方合わせて50〜150万円程度ですが、認知症時代の全方位対策として最強の組み合わせです。多くの司法書士・弁護士事務所でセットでの提案が可能です。

まとめると、任意後見は「指名権」と「費用の安さ」が最大のメリットです。親が元気なうちに子を後見人として指名しておけば、いざ認知症になっても慌てずに対応できます。

準備③:生前贈与の早期検討——暦年贈与・相続時精算課税

生前贈与は「長期戦」の相続税対策です。親が元気なうちに計画的に始めれば、相続時の財産を効果的に減らせます。認知症になってしまうと贈与契約自体ができなくなるため、生前贈与も「早く始めるほど有利」な対策の代表格です。

なぜ早期が重要かというと、暦年贈与の110万円枠は「毎年使える」ものだからです。10年続ければ1,100万円、20年続ければ2,200万円を非課税で移せます。80歳から始めるのと70歳から始めるのとでは、総額に大きな差が生まれるのです。

主な生前贈与制度

① 暦年贈与(年110万円枠)

1人あたり年110万円まで贈与税非課税。毎年コツコツ積み上げる基本的な方法。2024年から相続前7年以内の贈与は相続財産に加算されるルールに変更された点に注意。

② 相続時精算課税制度

2,500万円までの贈与を相続時に精算する制度。2024年改正で年110万円の基礎控除が追加され使いやすくなった。ただし不動産の贈与は登録免許税・不動産取得税が高くつくため注意。

③ 住宅取得資金贈与

子・孫のマイホーム資金として最大1,000万円まで非課税(省エネ住宅は条件あり)。子が住宅購入のタイミングと合わせて活用しやすい。

④ 教育資金の一括贈与

孫への教育資金として最大1,500万円まで非課税。信託銀行等の専用口座を使う。孫が30歳になるまでに使い切れば非課税。

⑤ 結婚・子育て資金贈与

子や孫への結婚・出産・育児費用として最大1,000万円(結婚は300万円)まで非課税。こちらも専用口座方式。使途が限定される点に注意。

⑥ 配偶者への居住用不動産贈与

婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産または購入資金を最大2,000万円まで贈与税非課税(おしどり贈与)。両親間で使える制度。

⚠️ 2024年改正で暦年贈与のルールが変更

2024年1月1日以降の贈与から、相続発生前「7年以内」の贈与が相続財産に加算されるようになりました(改正前は3年)。例外として、加算期間延長分(4〜7年前)については合計100万円まで控除されます。このため「早めに始めることの価値」はますます高まっています。70歳前後から始めれば7年ルールの影響を最小化できます。

生前贈与の全体像は生前贈与とは?、暦年贈与の詳しい使い方は暦年贈与110万円の記事で解説しています。

準備④:遺言書の作成サポート——親に書いてもらう

遺言書は「親自身が書くもの」ですが、子が作成をサポートすることで完成度を大きく高められます。ただし、子が内容を主導すると「遺留分侵害」や「他の兄弟からの異議」などのトラブルが起きやすくなるため、あくまで「親の意思を尊重するサポート役」に徹することが重要です。

なぜ遺言書が大切かというと、遺言書がないと相続人全員の合意が必要な「遺産分割協議」を行う必要があり、兄弟間のトラブルに発展することが非常に多いからです。公正証書遺言があれば手続きが格段にスムーズになります。

子が遺言書作成をサポートする5ステップ

ステップ1:親の意思を丁寧にヒアリング

「誰に何を遺したいか」「お世話になった人に感謝の気持ちを形にしたいか」などを穏やかに聞く。強引に誘導しないことが重要。時間をかけて複数回に分けて確認する。

ステップ2:財産目録を一緒に作成

不動産・預貯金・保険・証券・動産を一覧化。親が忘れているものは子が書類で確認して補完。これがないと遺言書の作成も進まない。

ステップ3:専門家(公証役場・弁護士・司法書士)を紹介

公正証書遺言の作成を推奨。子が専門家のリストアップと予約を代行。親と一緒に面談する(同席しても問題ない場合が多い)。

ステップ4:公証役場での作成(本番)

原則として親本人と証人2名が必要。子は受遺者になる場合は証人になれない。親の送り迎えや事前打ち合わせのサポートを行う。

ステップ5:完成後の保管と他の相続人への周知

公正証書遺言は公証役場でも保管されるが、正本・謄本は親の手元にある。保管場所を親と共有し、必要に応じて他の兄弟にも「遺言書がある」ことだけは伝えておく。

⚠️ 子主導の遺言書作成は要注意

「子が内容を決めて親にハンコだけ押させる」ようなやり方は、後に他の兄弟から「親の自由意思ではない」「遺言無効訴訟」を起こされるリスクがあります。認知症気味の親の遺言書は特に注意が必要で、公証人が本人の判断能力を確認しますが、疑問が残るケースでは「自筆遺言は無効」と判断された判例もあります。安全策として、①親が元気なうちに作成、②複数の兄弟の前で意思確認、③公正証書遺言、④ビデオ録画で意思確認、⑤医師の診断書を添付、などの工夫が有効です。

準備⑤:財産の目録化・デジタル遺産整理

財産目録の作成は、5つの準備の中で最も着手しやすく、最初の一歩としておすすめです。親の負担も比較的軽く、子が代わりに整理する形でも十分機能します。認知症後は情報収集が困難になるため、早めに整理しておくことが重要です。

特に近年は「デジタル遺産」(ネット銀行・証券・暗号資産・サブスク・SNSアカウントなど)の問題が深刻化しています。パスワードやアクセス情報が分からないまま親が亡くなると、口座凍結・サブスク継続課金・SNS放置など多くのトラブルにつながります。

整理すべき財産リスト

カテゴリ 具体例 記録すべき情報
不動産 実家・投資不動産・別荘 登記簿・権利証・固定資産税評価額
預貯金 銀行・ゆうちょ・信金・ネット銀行 銀行名・支店名・口座番号・通帳の保管場所
証券 株式・投信・国債・ネット証券 証券会社・口座番号・取引ID
保険 生命保険・医療保険・損害保険 証券番号・契約者・受取人
デジタル遺産 ネット銀行・暗号資産・SNS ID・パスワード・秘密鍵(別保管)
サブスク Netflix・Amazon Prime・新聞 サービス名・契約日・月額・解約方法
借入金・債務 住宅ローン・カードローン・連帯保証 借入先・残高・返済スケジュール
動産 貴金属・骨董・美術品・自動車 購入時期・購入金額・保管場所

デジタル遺産のパスワード管理は慎重に

パスワードや暗号資産の秘密鍵は、財産目録と同じノートに全部書くのは危険です。目録には「どこに何があるか」だけを記録し、パスワード類は別ノート・別金庫に分けて保管するのが鉄則です。パスワード管理アプリ(1Password・Bitwardenなど)を使い、マスターパスワードのみを信頼できる家族に伝える方法も有効です。また、Googleの「アカウント無効化管理ツール」やAppleの「デジタル遺産プログラム」を使うと、本人死亡後に指定した家族へデータ開示が可能になります。

高齢の親と家族で相続を話し合う

本人と相続の話をするタイミングとベストな切り出し方

相続の話を切り出すベストタイミングは「親の健康・生活に変化があった直後」です。「相続のために」という切り口ではなく、「今後の安心のために」というトーンで始めるのが成功のコツ。真正面から「相続の話をしたい」と切り出すと、多くの親は抵抗を示します。

なぜタイミングが重要かというと、親にとって「自分の死」を想起させる話題は本能的に避けたいものだからです。健康な日常の中で突然切り出されると「そんなに早く死なせたいのか」と受け取る親もいます。自然な流れの中で切り出すことが成功のカギです。

切り出しやすいタイミング5つ

① 親の入院・手術後

「今回のことで色々考えたでしょう? 今後の安心のために話しておきたいね」と切り出しやすい。親自身も死を意識しやすいタイミング。

② 親族・知人の葬儀後

「◯◯さんの相続で大変だったみたい。うちも考えておかないとね」と自然に話題にできる。身近な体験談が説得力になる。

③ 年末年始・帰省時

家族がそろうタイミングで兄弟と一緒に切り出す。「みんなで話しておきたいね」と巻き込む形が効果的。

④ 親の誕生日・敬老の日

「これからも元気でいてほしいから、将来のこと一緒に考えたい」と前向きなトーンで切り出せる。

⑤ 実家のリフォーム・相続関連ニュース

「最近こんなニュース見たけど、うちは大丈夫かな?」と情報共有の形で始められる。税制改正のニュースも切り口になる。

避けるべきNGワード

  • 「死んだ後のことだけど」——親の死を直接連想させる表現はNG
  • 「財産はどれくらいあるの?」——金目当てに聞こえるのでNG
  • 「早く遺言書書いてよ」——急かす言い方は反発を招く
  • 「お兄さんの取り分が多すぎる」——兄弟比較はトラブルの元
  • 「認知症になる前に」——親を病気扱いするような表現はNG
  • 「もう歳なんだから」——親の尊厳を傷つけるのでNG

最初の一言はこれがおすすめ

「今後も父さん(母さん)に安心して過ごしてもらうために、家族信託とか任意後見って仕組みがあるみたいだから、一度専門家の話を聞きに行かない?」

このように「親のため」「一緒に学ぶ」というトーンで始めると、親も構えずに受け入れやすくなります。いきなり決めるのではなく「話を聞くだけ」というハードルの低い提案から始めましょう。

「縁起でもない」と言われた時の対応

「縁起でもないことを言うな」と親から反発されるのは非常によくあるケースです。ここで引き下がってしまうと何も進みませんが、押し通そうとすると関係が悪化します。上手な切り返し方を知っておくと、スムーズに話を再開できます。

反発する親の心理は「死を意識したくない」「子に頼ることへの抵抗」「資産を把握されることへの不安」など様々です。それぞれの心理に寄り添った対応が必要になります。

親の反発パターン別・切り返し方

親の反応 裏にある心理 子の切り返し方
「縁起でもない」 死を意識したくない 「今から備えておくと安心だし、健康でいてもらうためだよ」
「まだ元気だから大丈夫」 自立への誇り 「元気だからこそ、今決めておける選択肢が多いんだって」
「財産なんてないから」 金額への抵抗感 「実家があるだけで相続手続きは必要だから、量より整理が大事」
「お前に任せておけば」 信頼・依存 「任せてくれるのは嬉しいけど、法律上は書面にしないと私も動けないよ」
「兄弟に知られたくない」 家族間の配慮 「今日は私だけで聞く。兄にはタイミング見て伝えるから心配しないで」
「また今度でいい」 面倒くさい 「一緒にこの本だけ読んでみない? 10分で済むから」と軽い提案
「お金目当てなんでしょ」 疑念 「お金のことより、父さんが認知症になった時の手続きで困らないためだよ」

第三者を巻き込むのも有効

子からの提案は「そういう意図があるのでは」と勘ぐられがちですが、中立的な第三者(親のかかりつけ医・近所の知人・従兄弟など)からの話は素直に聞きやすいものです。また、セミナー・市役所の無料相談会に「一緒に行ってみない?」と誘うのも効果的です。私自身、母を説得するときには父や兄の力も借りて「家族全員が同じ気持ち」であることを伝えることで、ようやく動いてもらえました。

準備が間に合わなかった場合の対処法——法定後見

残念ながら準備が間に合わず、親が認知症と診断されて資産凍結が起きた場合は、「法定後見」を家庭裁判所に申し立てるのが現実的な対処法です。自由度は低いものの、資産凍結の解除・介護契約の締結・施設入所手続きなどは問題なく進められます。

法定後見には「後見」「保佐」「補助」の3段階があり、親の判断能力のレベルに応じて使い分けます。判断能力を完全に失っている場合は「後見」、軽度の判断能力低下なら「補助」が適用されます。

法定後見申立の流れ

  1. 医師による診断書の取得(1〜2週間)——認知症の程度を医師に評価してもらい、家庭裁判所指定の診断書フォーマットで作成
  2. 家庭裁判所への申立書類準備(2〜3週間)——財産目録・収支予定表・親族関係図・申立書等を作成
  3. 家庭裁判所への申立——親の住所地の家庭裁判所に申立書・書類・手数料を提出
  4. 家裁調査官による事実調査(1〜2ヶ月)——親族への事情聴取・財産確認・医師の鑑定(必要時)
  5. 審判・後見人選任——裁判所が後見人を決定。親族希望もできるが第三者(弁護士・司法書士)が選ばれることも多い
  6. 登記と活動開始——後見登記完了後、後見人として銀行手続き・施設契約等が可能に
後見種別 対象者 権限
後見 判断能力を欠く常況 広範な代理権・取消権。日常の買い物以外は本人の判断無効
保佐 判断能力が著しく不十分 重要な法律行為(借金・不動産売買等)に同意権。その他は本人判断
補助 判断能力が不十分 特定の行為に同意権(申立時に範囲を指定)。本人の自己決定権を広く尊重

⚠️ 法定後見の「使いにくさ」を理解しておく

法定後見は「本人保護」が最優先のため、柔軟な財産運用や積極的な相続対策はできません。たとえば「孫のために生前贈与したい」「不動産を売って資金を有効活用したい」「株式の積極運用をしたい」といった行為は原則として認められません。また第三者後見人(弁護士・司法書士)が選任されると毎月2〜6万円の報酬が終身発生します。こうした使いにくさを知ると、「認知症前の家族信託・任意後見」の価値がよくわかります。後悔しないためにも、元気なうちに動くことが本当に大切です。

よくある質問

Q. 親がすでに軽度認知症と診断されています。今からでも家族信託や任意後見契約はできますか?

A. 軽度認知症(MCI含む)の段階であれば、契約行為ができる可能性は十分あります。重要なのは「契約時点での意思能力」で、これは医師の診断書で証明できます。司法書士や公証人も本人と面談して意思確認を行います。ただし症状の進行は早いため、診断から半年〜1年以内に動くのが望ましいです。具体的には、かかりつけ医に「契約の判断能力があるかどうか」を書面で出してもらい、それを持って司法書士・弁護士に相談するのが確実です。私の母も軽度認知障害の診断後に家族信託を結べたケースです。「もう遅い」と諦めず、まずは専門家に相談してみてください。

Q. 親が一切話し合いに応じてくれません。どうしたらいいですか?

A. 完全拒否されている場合は、無理強いしても逆効果です。次の3つを試してください。①兄弟・配偶者など家族全員で話を持ち掛ける(「家族全員の願い」という形にする)、②第三者(かかりつけ医・親の親しい友人・従兄弟)に協力を依頼、③市役所や社会福祉協議会の無料相談会に誘う。それでも難しい場合は、親が自分から相談したくなるニュースや知人の相続トラブルの話を「さりげなく共有する」方法が有効です。焦らず時間をかけることも重要で、1年スパンで少しずつ意識を向けてもらう姿勢が必要です。

Q. 家族信託と任意後見、どちらを優先すべきですか?

A. 財産の種類と家族構成によって異なりますが、一般的には「家族信託を先に、任意後見で補完」がおすすめです。家族信託は不動産・預貯金など主要財産の管理に強く、任意後見は医療同意・施設契約など身上監護に強いという違いがあります。両方あると家族信託で管理しきれない部分(介護契約・医療同意・信託に含めなかった財産)を任意後見で補えて最強です。ただし両方合わせて50〜150万円の費用がかかるため、財産規模によって判断してください。財産が少なく家族関係が良好な場合は任意後見だけでも十分機能します。司法書士・弁護士と相談して最適な組み合わせを決めましょう。

Q. 親が賃貸アパートを持っています。認知症後も家賃管理は続けられますか?

A. 家族信託を使えば続けられます。賃貸アパートを信託財産に入れておけば、受託者である子が家賃の回収・修繕・入居者対応を代わりに行えます。認知症前に家族信託を設定しておかないと、認知症後は家賃振込先の変更・修繕契約・退去立ち会いなど通常業務が止まってしまい、空室率の悪化・建物の老朽化を招くリスクがあります。特に複数戸所有している場合は、家族信託が必須と言っても過言ではありません。信託登記費用は1棟あたり20〜40万円程度が目安です。賃貸経営を続けるのであれば、家族信託は必須の対策です。

Q. 子が複数いる場合、誰が主導して準備を進めるべきですか?

A. 原則として「兄弟全員で協力して」が理想ですが、距離や時間の都合で1人が主導せざるを得ないケースが多いのが実情です。その場合は必ず他の兄弟に「進捗を共有する」ことが重要です。黙って1人で進めると、後に「勝手に決めた」「自分の有利に動いた」といった不信を招き、相続後の兄弟トラブルの種になります。LINEグループを作って専門家との打ち合わせ内容を共有する、書類はクラウドで共有する、最終決定は必ず家族会議で行う、などの工夫が効果的です。私が相談を受けたケースでも、「主導者の情報共有不足」が原因で兄弟仲が崩れた事例を何度も見てきました。

Q. 親のキャッシュカードを預かって引き出しを代行していますが、問題ありますか?

A. グレーゾーンですが、親の判断能力がある間は「代理引き出し」として暗黙に行われているケースが多いのが現実です。ただし注意点として、①親の同意が都度あることを記録する、②使途を必ずメモに残す、③親名義の支払いのみに使う、④他の兄弟への事前報告をする、の4点を守ってください。認知症後にキャッシュカードで引き出しを続けると、銀行に気付かれた場合に口座凍結となったり、他の兄弟から「使い込み」を疑われて相続トラブルに発展することがあります。安全に続けるためには「家族信託」か「任意後見」で法的な管理権限を持つのが正解です。

Q. 親が全く相続の話に耳を貸しません。どこに相談すれば良いですか?

A. まずは「子だけで」専門家に相談するのがおすすめです。司法書士・税理士・弁護士の無料相談を活用し、現状でできる備え(親が動いてくれない間に子ができる準備)を確認しましょう。相続に強い専門家は「親が動いてくれないケース」にも慣れており、切り出し方のアドバイスもくれます。また、税理士・司法書士・弁護士がチームを組むワンストップ相続相談窓口なら、親の説得から実際の契約まで一貫してサポートしてくれます。費用を抑えたい場合は自治体の無料相談会(月1〜2回開催が多い)もおすすめです。一人で抱え込まず、プロの知恵を借りることが最短ルートです。

FOR BUSY PEOPLE

親の相続準備を代わりに進めたい方へ

家族信託・任意後見・生前贈与の選択肢は複雑で、自分だけで判断するのは難しいもの。税理士・司法書士・弁護士が同じチームで相談対応するワンストップサービスなら、親の状況に合った最適な準備を提案してもらえます。

この記事のまとめ

親が高齢・認知症気味のときに子が代わりに進める相続準備まとめ

  • 親が高齢になったら子が主導すべき準備は「家族信託・任意後見・生前贈与・遺言書作成サポート・財産目録化」の5つ。すべて「親の判断能力があるうち」が大前提
  • 認知症後は家族信託・任意後見契約・遺言書作成・生前贈与すべてができなくなる。残されるのは「法定後見」のみで、自由度は大きく低下する
  • 家族信託は認知症後も実家や預貯金の管理を続けられる仕組み。設定費用は40〜130万円程度だが、法定後見の月額報酬(終身)と比較すると長期的には有利
  • 任意後見契約は家族信託でカバーできない身上監護(介護契約・医療同意)まで補う。信託と組み合わせるのが理想。費用は10〜15万円程度
  • 生前贈与は暦年贈与(年110万円)を軸に、相続時精算課税・住宅取得資金贈与・教育資金贈与などを組み合わせる。2024年改正で相続前加算期間が7年に延長された点に注意
  • 遺言書は「親が書くもの」だが、子が作成をサポートすることで完成度が上がる。ただし子主導だと遺言無効訴訟のリスクがあるため、親の自由意思を尊重する姿勢が重要
  • 財産目録作成は5つの準備の中で最も着手しやすい。デジタル遺産(ネット銀行・暗号資産・サブスク)の整理は特に重要
  • 相続の話を切り出すタイミングは「親の入院後」「親族の葬儀後」「年末年始」「親の誕生日」「相続関連ニュース共有」など、自然な流れの中が理想
  • 「縁起でもない」と言われたら、親の心理に応じて切り返す。第三者(かかりつけ医・兄弟・専門家)を巻き込むと話が進みやすい
  • 準備が間に合わなかった場合は「法定後見」を家裁に申し立てる。後見・保佐・補助の3段階があるが、本人保護が最優先で柔軟な相続対策はできない
  • 1人で抱え込まず、税理士・司法書士・弁護士のワンストップ相談窓口や自治体の無料相談を活用する
  • 主導する子が複数兄弟に進捗を共有することは、相続後のトラブル防止に不可欠。LINE・クラウドでの情報共有を習慣化する

親の相続準備は「気づいた時が始めどき」です。「まだ早い」と思っている今この瞬間こそが、最も多くの選択肢を持てるタイミング。一度専門家に相談するだけでも、全体像が見えて動き方が変わります。家族信託の詳しい仕組みは家族信託とは?、生前贈与の基本は生前贈与とは?、親が元気なうちの準備全般は親が元気なうちにやるべき相続準備の記事でさらに詳しく解説しています。相続トラブルの実例は相続トラブルTOP5も参考に、大切な親と家族のために、今日から一歩を踏み出しましょう。

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