「うちはそんなに資産がないから相続税は関係ない」——こう思っている方が多いですが、実は自宅の土地だけで基礎控除を超えるケースは珍しくありません。特に都市部では土地評価額が高く、「まさか課税されるとは」という事態が起きています。相続税には申告期限(10ヶ月)があり、気づいたときには手遅れというケースも。この記事では、かかるかどうかの判断方法・基礎控除の計算・主な特例まで、わかりやすく解説します。
著者より
ある秋、60代の女性が窓口に来て「夫が8ヶ月前に亡くなったんですが、相続税って申告しないといけないですか?」と聞いてきました。話を聞くと、夫名義の自宅(埼玉の一軒家)と預金が少し。「財産らしい財産はないから、税金は関係ないと思っていた」とおっしゃいました。
自宅の路線価を調べると、土地だけで約3,500万円。預金と合わせると基礎控除(相続人は配偶者と子2人で4,200万円)をわずかに超えていました。申告期限まであと2ヶ月を切っていて、「今から税理士に頼めますか」と青ざめた顔で聞かれました。なんとか間に合いましたが、あと少し遅かったら延滞税や無申告加算税が発生するところでした。
「普通の家」でも、土地の評価額によっては申告が必要になる。このことを早く知ってほしくて、この記事を書きました。
田中 由美(AFP・相続診断士・元銀行員)
📌 この記事でわかること
- ✅ 相続税の基礎控除額の計算式(3,000万+600万×法定相続人数)
- ✅ 相続財産に含まれるもの・含まれないもの
- ✅ 申告が必要かどうかの判断フロー
- ✅ 法定相続人の数え方(相続放棄した人の扱いも)
- ✅ 配偶者控除・小規模宅地の特例など主要な特例
- ✅ 申告の期限・申告先・税理士への依頼タイミング
相続税の基礎控除額とは
相続税には基礎控除額があり、遺産総額がこの金額以下であれば相続税はかかりません。申告も不要です。基礎控除額は以下の計算式で求めます。
基礎控除額の計算式
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
相続人が1人の場合
3,600万円
相続人が2人の場合
4,200万円
相続人が3人の場合
4,800万円
相続人が4人の場合
5,400万円
注意:2015年以前の基礎控除は「5,000万+1,000万×相続人数」でしたが、改正で大幅に引き下げられました。以前は「うちは無関係」だった家庭が課税対象になるケースが増えています。特に都市部で自宅を持っている方は要注意です。
法定相続人の数え方
基礎控除の計算で使う「法定相続人の数」には、注意が必要なルールがあります。法定相続人の範囲と優先順位も合わせて確認してください。
✅ 人数に含めるケース
- 相続放棄した人も含める(実際に相続しなくても法定相続人の数に算入)
- 養子は原則として実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人まで算入
- 胎児は生まれた場合に相続人として扱う
⚠️ 間違えやすいポイント
- 相続放棄した人は遺産はもらえないが人数には入る
- 養子を何人入れても上限あり(租税回避防止)
- 内縁の配偶者・事実婚は法定相続人に含まれない
| 家族構成の例 | 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 1人 | 3,600万円 |
| 配偶者+子1人 | 2人 | 4,200万円 |
| 配偶者+子2人 | 3人 | 4,800万円 |
| 子3人(配偶者なし) | 3人 | 4,800万円 |
| 配偶者+子2人(うち1人が相続放棄) | 3人(放棄者も含む) | 4,800万円 |
相続財産に含まれるもの・含まれないもの
基礎控除と比較する「遺産総額」には、すべての財産が含まれるわけではありません。含まれるもの・含まれないものを正確に把握することが大切です。相続手続きの全体の流れも参考にしてください。
💰 課税対象になる財産
- 現金・預貯金
- 不動産(土地・建物)
- 株式・投資信託・債券
- 生命保険金(非課税枠超過分)
- 死亡退職金(非課税枠超過分)
- 貸付金・売掛金
- 骨董品・宝飾品・自動車
- 相続開始前7年以内の生前贈与財産(2024年1月1日以降の贈与から適用。2023年以前の贈与は従来通り3年以内が対象)
🚫 課税対象にならない財産
- 墓地・仏具・神棚(祭祀財産)
- 公益法人等への寄付財産
- 生命保険金の非課税枠
(500万円×法定相続人数) - 死亡退職金の非課税枠
(500万円×法定相続人数) - 受取人指定の生命保険で相続財産外のもの
💡 生命保険の非課税枠の活用例
相続人が3人の場合、生命保険の非課税枠は 500万円 × 3人 = 1,500万円。死亡保険金が1,500万円以内なら、その分は課税遺産総額に加算されません。生前から生命保険を活用した相続対策が有効なのはこのためです。
※ 非課税枠の適用には「相続人が受取人になっていること」が条件です。
申告が必要かどうかの判断フロー
次の3ステップで判断できます。ステップ2の遺産総額の把握が最も重要で、特に不動産の評価額(路線価×地積など)を正確に計算することが必要です。
ざっくり判断の目安
- 都市部に自宅あり → 土地評価額だけで基礎控除を超えることも
- 預金・株式・不動産の合計が基礎控除に近い → 要確認
- 生命保険が多い → 非課税枠を活用できるか確認
法定相続人の数を確認する
戸籍謄本をもとに法定相続人の範囲を確定します。相続放棄した人も人数に含めることを忘れずに。基礎控除額(3,000万+600万×人数)を計算します。
遺産総額(課税価格)を把握する
預貯金・株式は残高証明書や取引残高報告書で確認。不動産は路線価(国税庁ウェブサイトで確認可能)を使って評価額を計算します。生命保険は受取額から非課税枠を差し引いた金額を加算します。
遺産総額と基礎控除を比較する
遺産総額 > 基礎控除額であれば申告が必要です。ただし、配偶者控除・小規模宅地の特例などを適用すると税額がゼロになる場合でも、申告自体は必要な場合があります。判断が難しい場合は早めに税理士に相談してください。
知っておきたい主な特例・控除
相続税には様々な特例・控除があり、うまく活用することで税額を大幅に減らせる場合があります。ただし、特例の適用には申告が必要なものが多く、申告を怠ると適用されません。
重要:小規模宅地の特例について
自宅の土地に小規模宅地の特例(最大80%減額)を適用すると、評価額が5分の1になります。例えば土地評価額4,000万円 → 800万円に。これにより基礎控除以下になるケースが多いですが、申告しなければ特例は適用されません。「税金がかからないから申告しない」は間違いです。
申告の期限・申告先・税理士への相談タイミング
相続税の申告・納付期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限を過ぎると、無申告加算税(最大20%)や延滞税が発生します。
申告先は被相続人の最後の住所地を管轄する税務署です。複数の相続人がいる場合も、同じ税務署に申告します。相続手続きを頼む専門家の選び方も参考にしてください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申告・納付期限 | 相続開始を知った翌日から10ヶ月以内 |
| 申告先 | 被相続人の最後の住所地を管轄する税務署 |
| 期限超過のペナルティ | 無申告加算税(5〜20%)+延滞税(年2.4〜8.7%程度) |
| 税理士への相談タイミング | 相続開始後2〜3ヶ月以内が理想。財産調査・申告準備に時間が必要 |
| 延納・物納 | 現金一括が難しい場合、分割払い(延納)または不動産で納付(物納)の申請が可能 |
よくある質問
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まとめ
「うちは関係ない」と思っていた方が、実は申告が必要だったというケースは少なくありません。まず基礎控除額を計算し、自分の家庭がどこに当てはまるかを確認することが最初の一歩です。
- 基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数
- 相続放棄した人も法定相続人の数に含める
- 不動産は路線価で評価し、思ったより高くなることが多い
- 生命保険の非課税枠(500万円×相続人数)は確認必須
- 配偶者控除・小規模宅地の特例で税額ゼロでも申告は必要
- 申告期限は10ヶ月以内。税理士への相談は2〜3ヶ月以内が理想
判断に迷う場合は相続税専門の税理士への相談が確実です。初回無料の事務所が多く、「かかるかどうかだけ聞きたい」という相談でも問題ありません。

